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「向きあう、つながる、広がる」で世界に発信 岡山大学病院(岡山市北区鹿田町)金澤右(すすむ)院長

金澤右院長

岡山大学病院は運用病床841床、1日平均外来患者数2732人、医師610人、歯科医師196人、1042人の看護師等を含む約2600人の職員が勤務する中四国地方を代表する大規模病院となっている

 ―4月に病院長に就任され、2カ月が過ぎました。今のお気持ちを聞かせてください。

 金澤 岡山大学病院は厚生労働大臣から「特定機能病院」の承認を受けている、全国に84しかない特殊な病院です。先進的医療を提供し、新たな医療技術や機器の開発・臨床研究に取り組み、そして高度な教育を施す。この三つが本院のミッションで、現在、非常に高いレベルにあるとは思っていますが、これをさらに高めることと、患者さんのためを考えれば、いかに安全で精度の高い医療を提供できるのかということが大事になってきます。安全管理が徹底した特定機能病院にしたいと思っています。

 手術件数は年間1万件を超え、常に全国国立大学病院トップ3に位置しています。画像ガイド下低侵襲治療の手段となる血管撮影件数は全国国立大学病院中第1位です。中でも小児心臓血管外科手術は世界レベルにあり、諸外国からも多数の患者さんが来られますし、肺移植はわが国随一の実績を誇っております。

 ―岡山大学病院の立ち位置は中四国、西日本の医療の「最後の砦(とりで)」であると述べられていますね。

 金澤 岡山大学病院には244の関連病院があります。これは、おそらく国内最大規模の病院グループだと思っています。その機能の一つとして、岡山大学病院で育った人材を派遣して地域医療を支えています。もう一つは、地域の病院では治療が難しい患者さんを受け入れ、われわれの高度な医療で治療し、地域の病院に戻っていただくというのが長い伝統の中でつくり上げられたシステムです。それが非常に良く機能していると思います。

 岡山大学病院には、臓器移植医療センターや低侵襲治療センターなど組織横断的なセンターがいくつもあります。各診療科ごとの縦割りでは情報や意識の共有化は図れません。複数の診療科によるセンターをつくることで、いろんなアイデアがもたらされるし、患者さんの情報がセンターに集中することで安全管理上のメリットもあります。高齢化が進んだ今、複合疾患にいかに対応するかが課題で、医師や看護師などの職種や診療科を超えて、院内の考えられる限りの力をすべて合わせてチーム医療を展開するのが岡山大学病院の一つの大きな特徴です。

 ―専門は放射線診断学と低侵襲治療ですね。

 金澤 画像ガイド下にカテーテルなどを用いてがんや心臓病などの低侵襲治療を行うIVRセンター(インターベンショナル・ラジオロジーセンター)では、全体としては年間5千件くらい治療しています。これは全国でトップクラスです。岡山大学病院の特徴は、カテーテル治療だけでなく、ラジオ波治療や凍結治療など、CT画像でガイドしながら針を刺して腫瘍を焼いたり凍らせたりする治療が全国で最大規模の件数を行っていることです。

 陽子線治療は津山中央病院(津山市川崎)で始まって1年が過ぎましたが、小児がんを含む百数十人が治療を受けられました。小児がんにとって陽子線治療は福音となります。なぜかというと、従来の放射線だとがんの周囲の正常組織に影響を与えてしまい、成長の過程で、影響を受けた部分からがんが発生することがあるからです。陽子線なら腫瘍だけを狙うので障害が極めて少ないのです。

 今年4月には鹿田キャンパス内に中性子医療研究センターを設置し、ホウ素中性子捕捉療法について研究を進めています。

 IVRを遠隔操作するロボットの開発にも工学部と共同で取り組んでいます。今まで人間が操作していたものを、ソフトウエアで軌道を計算して正確に針を刺すシステムです。まだ完成ではありませんが、われわれが夢見ていたことが現実に近づいています。イノベーションを起こさないと医学は進歩できません。それが研究機関であり、高いレベルの総合力を有する大学の使命でしょう。

 ―2017年3月には中四国地方唯一の医療法上の「臨床研究中核病院」に認定されました。

 金澤 臨床研究中核病院は、日本発の革新的な医薬品・医療機器などの開発を推進するため、国際水準の臨床研究などの中心的な役割を担う病院で、文字通りわが国の臨床研究の拠点となりました。

 岡山大学には関連病院を中心としたネットワーク「中央西日本臨床研究コンソーシアム」があります。中国・四国地方と、兵庫県西部の基幹病院で組織し、全部合わせると約3万床のベッド群になります。3万床のベッドを対象に臨床研究ができるのは世界でも例がないと思います。そのくらいの規模になります。これを実体化することが今後の目標で、それには優れた研究シーズを吸い上げることがとても大切になります。コンソーシアムのスケールメリットを生かし、新たな治療法、薬剤の研究・開発に取り組んでいきます。

 同時に、全国に10施設しかない文部科学省の「橋渡し研究拠点」でもあり、がんの遺伝子治療、心筋細胞の再生医療研究など基礎医学から臨床医学につながる橋渡し研究が盛んに行われています。院内の「新医療研究開発センター」ではそれらの活動を担うため多くの専任スタッフが活躍しています。全国に先駆けてバイオバンクも設立され、テーラーメードの未来型医療を目指しています。

 ―今後の岡山大学病院の方向性を教えてください。

 金澤 先日、外国人患者受入れ医療機関認証制度「JMIP(ジェイミップ)」に中四国地方で初めて認定されました。院内表示も日本語、英語、中国語にしていますし、海外患者に対応する職員もいます。

 最近、岡山大学病院では外国人の患者さんが激増しています。ホームページを見て、国際対応をしていることを知り、小児心臓血管外科など岡山大学病院の高い医療水準を求めて来られるのでしょう。中国や韓国、カンボジア、ベトナム、インドネシアなどいろんな国から来られます。欧米からも特殊な病気の治療を受けに来られる方がいらっしゃいます。医療の世界では国の壁はないと考えた方がいいでしょう。そのため国際対応のためのシステムをどんどんつくっています。

 岡山大学病院は「向きあう、つながる、広がる」をスローガンに掲げています。患者さんやそのご家族と真摯(しんし)に「向きあい」、地域の方々や社会と密接に「つながり」、世界に羽ばたいて「広がる」ことを意味しています。この三つが岡山大学病院の今の方向でもあり、今後の方向でもあると思っています。

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 岡山大学病院(086―223―7151)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月05日 更新)

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