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おしっこのお話~日常診療から最新医療まで

川崎医科大学総合医療センターが開催した第6回開院記念市民公開講座。「おしっこのお話~日常診療から最新医療まで」をテーマに3人の医師が講演。大勢の人々が熱心に聞いた=5月27日、川﨑祐宣記念ホール

堀川雄平泌尿器科医長

上原慎也泌尿器科副部長

大城義之内科副部長

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第6回開院記念市民公開講座が5月27日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院の堀川雄平泌尿器科医長、上原慎也泌尿器科副部長、大城義之内科副部長の3人が、「おしっこのお話~日常診療から最新医療まで」をテーマに講演した。

泌尿器科医長 堀川雄平
「おしっこ」を科学する―検尿から分かるあれこれ


 今日は、泌尿器科の検査についてお話をします。

 人間の体は半分以上が水分でできていることをご存じでしょうか。子どもは70%、大人でも50~60%が水分で構成されています。血液は、ほぼ水分です。これが全身を巡る中で腎臓に流れ込み、体にとって有害な老廃物をろ過しておしっことして排泄(はいせつ)します。腎臓から尿管を通って膀胱(ぼうこう)まで流され、さらに尿道を通じて体外に出ていきます。

 泌尿器科におしっこの検査は欠かせません。まずは健診や内科外来で行う検尿です。コップにおしっこを出していただいて、テープを浸して反応を見る、大まかな検査を行います。異常があった場合は泌尿器科で尿の遠心分離をします。すると赤血球や白血球、細胞、結晶成分などが沈殿して沈渣(ちんさ)が現れますので、これを顕微鏡で調べます。白血球が5個以上見えると膀胱炎や腎盂(じんう)炎、前立腺炎を疑います。赤血球が5個以上あると尿管結石、膀胱がん、腎炎を、上皮細胞があれば膀胱炎、尿道炎、膀胱がんを考えます。こういった検尿の異常から追加の検査をいろいろ考えます。

 白血球が5個以上見えた時に疑う病気、ばい菌が絡むような病気には尿培養をしてばい菌を見つけにいきます。膀胱炎は女性の方の2人に1人は経験すると言われていますが、この病気で一番多く出てくるのが大腸菌です。尿管結石を疑う時は、超音波検査やCT、エックス線など画像検査を行います。膀胱がんを疑う時は、尿細胞診といって血尿の中に含まれる細胞を顕微鏡で見て、細胞の異常を突き止めます。膀胱の中を直接カメラで見る膀胱鏡による検査もします。

 次はおしっこの出具合についてです。「最近、回数が増えた」「出にくくなった」と言って泌尿器科を受診する患者さんの場合には、排尿機能を調べます。まずは症状をよく聞きます。その上で問診票に記入してもらうこともあります。トイレのセンサー付き便器に実際に尿を出してもらい、十分な勢いがあるのかどうかを見るウロフロ検査もします。

 近頃、前立腺がんが男性のがんで1、2位を争うようになりましたが、その検査も泌尿器科で行います。採血の項目で、腫瘍マーカーであるPSAを測り、チェックすることができます。PSAは前立腺だけが分泌するタンパク質です。4ng/mL以上であれば、がんを疑います。ただ、数値が高いからと言って必ずがんとは限りません。前立腺炎や前立腺肥大症でも上昇します。

泌尿器科副部長 上原慎也
「おしっこ」の病気―どうやって治すの?


 泌尿器科の扱う臓器は、ホルモンを産生する副腎に加え、尿を生産する腎臓と尿を輸送する尿管・膀胱(ぼうこう)・尿道のいわゆる尿路、そして生殖に関連する精巣や前立腺といった精路です。

 疾患としては悪性腫瘍、感染症、尿路結石、排尿障害のほか、男性不妊症についても診療しています。

 まずは尿路感染症についてお話しします。尿路感染症は、ばい菌が尿道の先から入って何らかの症状を起こす病気です。尿の流れの逆向きにばい菌が感染していく、逆行性感染という形で進行していきます。腎盂(じんう)腎炎や膀胱炎、前立腺炎、尿道炎などがあります。

 基礎疾患のない単純性と、何らかの病気があって起きる複雑性に分けて考えます。単純性では通常、抗菌薬の投与で治癒します。複雑性は腫瘍や結石など、尿の流れを妨げるような疾患がある場合を指します。治療では、抗菌薬の投与に加え、これらの基礎疾患への対処が重要で、基礎疾患を治癒しない限り簡単に再発します。また、複雑性では薬の効きにくい菌が感染する傾向があります。

 尿路感染症の治療の問題点は、抗菌薬の効きにくい大腸菌が増加していることです。また、他の細菌も同じような傾向にあります。抗菌薬の乱用に加え、家畜・養殖魚が病気にならないようにと餌に抗生物質を混ぜて与えているため、本来とらなくてもいい抗菌薬を食事を通じて日々摂取してしまっています。こうしたことにより、細菌が耐性を強めて世界的な規模で問題になっています。抗菌薬の使用制限や適正使用の努力を行う必要があります。

 尿路結石は、大きく分けて腎結石、尿管結石、膀胱結石に分けられます。若年から高齢者まで幅広く発症する疾患ですが、女性に関しては、女性ホルモンが低下する閉経後に多く見られるようになります。激痛が主な症状です。腎盂腎炎を併発すると、命に関わる事態になります。多くの場合は自然に排出されますが、排出されない場合は体外衝撃波や、専用の内視鏡とレーザーで結石を破砕する必要があります。

 泌尿器科での悪性腫瘍の治療では、大きく開腹する手術はまれで、多くの場合、内視鏡手術が行われます。膀胱がんでは、尿道から内視鏡を入れて切除する手術、腎がんや尿管がんでは、おなかに入れた筒から機械を出し入れして切除する腹腔鏡(ふくくうきょう)手術、前立腺がんでは、コンピューター制御された精密な機械を用いたロボット手術が主に行われています。

内科副部長 大城義之
蛋白尿から腎臓をまもる


 尿検査は何のためにするのかと言いますと、蛋白(たんぱく)尿や血尿がどの程度出ているかを調べるためです。蛋白尿が多いと早く腎臓の働きが悪くなるので、早期発見と早期治療を行うために、健診で尿検査が取り入れられています。

 腎臓の働きを示す数値に糸球体ろ過量(GFR)があります。正常値は100で、悪くなると下がります。これが60未満なら専門医にかかりましょうということです。

 腎臓にある糸球体基底膜という薄い膜は、通常蛋白や血液は通過することができませんが、基底膜の障害により蛋白尿や血尿が出て、やがて基底膜の構造が破壊されて腎不全にいたります。逆にいうと蛋白尿や血尿を減らすことが、腎臓病の進行阻止につながります。腎臓のどの病気にも共通して言えることは、蛋白質の負荷を減らし、糸球体にかかる圧を減らすことが重要だということです。

 腎臓は自覚症状が少ない臓器で、以前は末期腎不全、透析治療直前にならないと病気が分かりませんでした。現在は尿検査の普及に伴い腎臓病の早期発見・早期治療が行われ、透析医療への導入を遅らせたり、腎機能の悪化が防げるようになりました。

 現在、人工透析に至った患者さんは国内に約31万人います。透析患者さんの5年生存率は60%なので、10人のうち4人は亡くなってしまいます。さらに、透析治療には年間400万~500万円かかりますので、国はそうしたこともあって予防・治療に力を入れています。

 2000年までは腎不全の原因となる主たる病気は慢性腎炎でしたが、検尿の普及によって減っています。その一方で、増えているのは糖尿病性腎症です。

 蛋白尿が多いことは腎機能の悪化を促進させるだけではなく、心血管病の発症とも深く関係しています。腎臓を早く治し、蛋白尿を減らすことが、心臓や血管の病気も予防できるということです。

 蛋白尿がたくさん出ている糖尿病の患者さんで透析治療に至るのが2・3%、透析に至る前に心臓や血管の病気で亡くなる患者さんは、その倍いることが分かっています。また、同じ血圧であっても腎機能が悪い患者さんは4倍くらい脳血管障害を起こしやすくなるので、できるだけ血圧を下げることが大切です。

 蛋白尿から腎臓を守ることはご自身のライフスタイルを維持することに他なりません。糖尿病や高血圧、肥満、喫煙が蛋白尿を増やします。血圧の管理と尿蛋白を減らすことが、腎臓だけでなく生命を守ることにつながります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月19日 更新)

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