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(4)不整脈・心房細動のカテーテル治療 心臓病センター榊原病院内科部長 伴場主一

カテーテル治療の様子

カテーテル治療中のコンピューター画面

伴場主一内科部長

心不全、脳梗塞の予防に

 こむら返りやしゃっくりなど、われわれの体は時に意思とは関係なく不意に動くことがあります。同様のことが心臓にも起きる場合があり、心臓の筋肉が予定外に興奮し脈が乱れると不整脈と呼ばれます。1回だけ脈が乱れると期外収縮と呼び、連続しておこると頻拍といいます。心臓の興奮の規則性が完全に失われ、ぶるぶると震えているような状態になると心電図でも細かい線の揺れとして記録され、細動と呼びます。

 心臓には心房と心室がありますので、心房に震えがおこると心房細動、心室におこると心室細動になります。心室細動は、急性心筋梗塞や重症な心不全がある場合以外では健康な人に発生することは滅多にありませんが、心房細動は誰にでもある日突然に発生することがあります。加齢と共に発症する可能性が高くなり、高齢化社会ではその増加が予想されています。

 心房細動の原因としては、加齢や遺伝的な要因といった生活の改善ではどうしようもないことと、肥満やアルコール過多、高血圧、糖尿病など生活習慣と関係するものがあります。そのため健康的な生活をしている方が心房細動になりにくいですし、治りやすく、将来的にも合併症も少なくなります。

 心房細動になっても、検診で心電図検査を受けるまで全く気付かない人もいれば、大変な胸の違和感があり救急で病院を受診する人もおり、自覚症状はさまざまです。脳梗塞になって初めて心房細動と診断されることもあります。家庭血圧計で脈拍異常などがあった場合は心電図検査をしておいてもよいと思います。

 心房細動になっても直接に生命には関係ありませんが、合併症として脳梗塞や心不全を引き起こすことがあります。

 脳梗塞は、抗凝固薬と言って血液が固まりにくくする薬の服用で大部分が予防できます。以前はワーファリンを服用することが多かったのですが、新しい薬も登場し選択枝が広がっています。高血圧の管理や禁煙も大切です。

 心不全は、薬などで脈拍数や血圧を適正にコントロールすれば問題が解決することも多いですが、肥満や運動不足、動脈硬化の予防など心臓以外の健康の維持も非常に大切です。

 心房細動そのものの治療としては薬、電気ショック、カテーテルアブレーションの方法があります。電気ショックは一時的に心房細動を停止させるだけですので、緊急時など一時しのぎの治療になります。薬の治療は簡便ですが、治療の成功率はさほど高くなく、脈が遅くなるなどの副作用が問題になることもあります。長期的にみると薬の効果はより限定的となります。

 現状では心房細動治療の主たる方法はカテーテル治療になってきました。カテーテルは直径3ミリ弱の細長い電線で、足の付け根から血管の中を通って心臓の中まで挿入し、電流を流して心筋を焼灼(しょうしゃく)・変性させることで興奮を無くし、不整脈を抑制します。科学技術の進歩に伴い、心臓内でのカテーテルの位置情報、CTや超音波の3D画像との融合、カテーテルの心臓への圧着具合がわかるカテーテルの出現など、ここ10年でこの領域は大きく進歩しました。治療成績、合併症の割合などは大きく改善され、1回の治療で済むことが多くなってきました。3~4日の入院で治療可能で、麻酔の環境も進歩しており、患者さんの苦痛や負担も小さくなってきています。

 心房細動の治療は、この10年で大きく流れが変化してきました。患者さん自身の総合的な健康状態を維持、改善することは非常に大切で心不全、脳梗塞の予防につながります。心房細動は、緊急の治療を要する場合は少ないですが、適切な診断、治療により、将来の健康状態が大きく異なる可能性もあり、少なくとも一度は病院で相談される方が良いと思います。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 ばんば・きみかず 愛知県立千種高校、岡山大学医学部卒。倉敷中央病院、岡山大学付属病院、高知医療センター勤務などを経て、2009年10月より心臓病センター榊原病院に勤務。総合内科専門医、循環器専門医、学会認定不整脈専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年07月03日 更新)

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