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連携強化で地域医療の安定に寄与 津山中央病院(津山市川崎)林 同輔(どうふ)院長

林同輔院長

津山中央病院が発行している結カード。裏面には、かかりつけ医に連絡がつかない場合はカードを発行した津山中央病院の医師(不在の場合は診療科)に連絡するよう記している

 ―病院長就任から3カ月が過ぎました。今のお気持ちを聞かせてください。

  前院長の藤木茂篤先生(現・総院長)が「2020年までに日本に誇れる医療サービス空間を構築する」というビジョンを立ち上げられて、それに基づく基盤整備事業(19年8月完了予定)が進行中です。がん陽子線治療センターの運営も軌道に乗り、現在、新病棟を建設中です。それが完成すれば低侵襲で高度な治療を提供するためにロボット手術室やハイブリッド手術室の整備に着手します。この基盤整備事業をつつがなく完了させることが第一ではないかと思っています。

 ―昨年4月から始まった、中四国では初となるがん陽子線治療センターの診療実績はいかがでしょう。

  治療中の患者さんも含め、これまでに108人(6月30日現在)に対して陽子線照射を実施しました。岡山県内は76人、県外は30人、海外は中国からの2人でした。平均年齢は70・2歳、小児は8人です。前立腺がんが最も多く36・1%、次いで肝臓がんの20・4%、肺など呼吸器関係が8・3%ありました。今後、照射が確定している人など候補者は34人います。適応外となり照射できなかった方も71人いました。

 陽子線治療は腫瘍に高い線量を集中照射でき、かつ正常な臓器への副作用が極めて少なく、成長過程にある小児に対しては大人以上にメリットがあります。今後期待しているのは、肝臓がんや膵臓(すいぞう)がん、肺がんの治療です。手術と比べた場合、肝臓だと、技術的には広範囲の切除も可能ですが、そうすることで臓器そのものが大きなダメージを受けて肝不全となり、亡くなることもあります。

 これは兵庫県での陽子線治療ですが、肝臓の太い血管である門脈の中に入り込んでいるような大きな腫瘍が全部消えてしまった事例があります。それには衝撃を受けました。肝臓の正常部分を傷めずに、腫瘍が大きくても高い治療効果が得られるのは陽子線治療のメリットだと思います。

 ―4月には、がん陽子線治療や人間ドックの受診を希望する外国人の受け皿となる専門部署「国際医療支援センター」を開設し、6月には中国・四国地方の医療機関では2番目となる外国人患者受入れ医療機関認証制度「JMIP(ジェイミップ)」の認証を受けました。

  人間ドックでは、がんの早期発見につながる画像診断装置PET/CTや胃カメラ、心臓・腹部の超音波といった健診のフルメニューを用意した「スーパードック」(1泊2日)で8人を受け入れました。

 現在、中国語ができる医師や看護師らは4人います。3人が中国人、1人は台湾人です。電話を介して通訳してくれる企業とも契約し、英語と中国語版のホームページも開設しました。

 JMIPは岡山大学病院に続いての認証となります。これで海外からの患者さんを受け入れる体制は整ったと考えています。陽子線治療、人間ドックを活用したインバウンド(海外からの誘客)については津山市、津山商工会議所と協力して積極的に取り組み、作州エリアの活性化に結びつけたいと考えています。

 ―その一方で、乳腺や肝胆膵外科などの分野で体制強化を図ってきました。

  乳腺外科は長年の懸案事項でした。というのは、乳がんになった作州エリアの患者さんの多くが県南部で治療していたからです。しかし、患者さんや家族の負担を考えれば、地元完結のほうが良いのは論を待ちません。そこで、当院も乳がんの専門医を呼んで診療体制を整えました。乳房再建も当院で実施できます。

 肝胆膵は手術が難しい特殊な分野ですが、昨年から体制を強化しました。高度技能専門医の修練施設を目指しています。修練施設に認定されれば肝胆膵外科を目指す若い医師たちが集まってレベルも上がり、患者さんの信頼もより高まるでしょう。そういった相乗効果を狙っています。

 ―今後、日本は世界に例を見ない高齢社会を迎えます。地域医療を支えるためには何が大切でしょうか。

  地域連携がこれまで以上に大切になってくるでしょう。私は副院長時代、地域連携を担当していました。2010年からはCommunity(地域)、Cooperation(連携)の頭文字をとって名付けた医療研修会「CCセミナー」を開催しています。地域の先生方や、医療従事者と顔の見える関係を築くためで、作州の各地に出向く出張CCセミナーも行っています。

 14年からは連携登録医制度を導入しました。救命救急センターを備えた急性期病院である当院と、症状の安定した患者を受け入れるかかりつけ医の先生方との協力体制を強化し、地域医療の向上につなげるためです。作州エリアにある約160の医療機関のうち126施設に登録してもらっています。

 ―5月からは、退院患者の体調異変に対し、かかりつけ医が不在の場合は津山中央病院が対応することを記した「結(ゆい)カード」の運用を始めましたね。

  運用の背景には連携登録医への逆紹介の推進があります。病状が安定して急性期を脱した患者さんは地域に帰っていただいて、また病状が悪化したら当院で治療をするというやりとりは、急性期病院とかかりつけ医との機能分化を進める上で重要です。ただ、そこで障害となるのが患者さんの不安です。「もう大丈夫ですから近くで診てもらいましょうね」と言うと、「見捨てられた」と受け止める患者さんがおられます。「いや、そうではなく、必要があれば津山中央病院がきちんと対処します」という意味で結カードを作りました。普段は近くの先生に診ていただいて、もし病状が大きく変化したら当院が責任を持ちます。その証しがこのカードです。

 ―津山中央病院の今後の方向性はいかがでしょうか。

  陽子線治療ができる総合病院は西日本では当院だけです。がん患者さんの中には化学療法の併用が必要な方や、さまざまな合併症を抱えた患者さんもいらっしゃいます。そういった治療の選択肢が限られた患者さんに門戸を開き、病状に合った最適な医療を提供し、西日本の患者さんたちに貢献したいと思っています。その一方で、診療体制の強化を今後も継続し、地域医療の安定化に寄与していくつもりです。作州エリアの医療機関と一層連携を深め、ともに成長していきたいと考えています。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年07月03日 更新)

タグ: がん津山中央病院

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