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慢性疼痛に骨粗しょう症薬有効 岡山大研究グループが確認

宮地孝明准教授(左)と加藤百合特任助教

 けがや病気などさまざまな原因で痛みが続く「慢性疼痛(とうつう)」に、クロドロン酸という物質を使った骨粗しょう症の治療薬が有効なことを、岡山大などの研究グループがマウスの実験で明らかにした。既存の鎮痛薬に比べて副作用が少ないのが利点という。成果を18日付の米科学アカデミー紀要電子版に発表した。

 グループは同大自然生命科学研究支援センターの宮地孝明准教授、加藤百合特任助教(ともに分子生物学)ら。痛みの緩和に、他の研究者が鎮痛効果を指摘していた骨粗しょう症治療薬に着目した。

 実験では、慢性疼痛を発症させたマウスに、この治療薬を注射すると、痛みを感じにくくなった。足の浮腫や血液検査から、炎症が抑えられていることも確認できた。一方で眠気などの副作用は観察されなかった。

 治療薬が作用するメカニズムについて、同大が2008年に発見した輸送体タンパク質「VNUT(ブイナット)」が関与していると考え、VNUT遺伝子を欠損させたマウスでも調べた。すると、治療薬を注射しても痛みや炎症に対して効果はなかった。

 こうした結果から、治療薬がVNUTの働きを阻害することが判明。通常はVNUTが運ぶ「ATP(アデノシン三リン酸)」と呼ばれる痛みを伝える神経伝達物質が放出されなくなることで、痛みや炎症を抑えていることを突き止めた。

 今回使用した骨粗しょう症治療薬はドイツで開発され、1990年代から広まったが、骨粗しょう症の治療効果が弱いことから、近年はほとんど使われていないという。日本では承認されていない。

 宮地准教授によると、この治療薬を低濃度で投与した場合でも鎮痛薬としては短時間で効き始め、長時間効果が続く利点もあった。

 新薬の開発には時間も費用もかかるため、既に安全性が実証されている既存薬を使い、新しい薬効を見いだす手法が注目されている。宮地准教授は「慢性疼痛だけでなく、糖尿病やアルツハイマー病といった神経性疾患など、さまざまな病気に応用できる可能性がある」と話す。

 慢性疼痛 神経が傷付くことで引き起こされる神経因性疼痛や、痛風、リウマチなど炎症が原因となる炎症性疼痛などに分類され、患者数は全人口の2割程度(国内では約2千万人)とも推計される。生活の質(QOL)の低下を防ぐためにも、痛みを取り除くことは重要とされるが、既存の鎮痛薬には眠気やめまいなど副作用があるとされる。長い年月を経て自然に治ることもある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年07月18日 更新)

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