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がん陽子線センター治療1年余 津山中央病院、115人に照射

治療開始から1年余りが経過した津山中央病院のがん陽子線治療センター

機械を操作し、患者に陽子線を照射するスタッフ

 津山中央病院(津山市川崎)の「がん陽子線治療センター」が、治療開始から1年余が経過した。中四国唯一の先進医療施設で、岡山県外からも多くの患者が訪れ、これまでに小児を含む100人以上に照射治療を実施した。多くの患者に効果が見られたという。今後は外国人患者の受け入れも本格化させ、人口減少の進む県北の活性化にもつなげていく。

 同センター照射室で5月下旬、ベッドに男性がうつぶせになり、陽子線照射の瞬間を待っていた。尾骨付近にがんが見つかった会社員男性(60)=真庭市。手術で病巣を取り除くと寝たきりになる可能性があるため、陽子線治療を受けることにした。

 この男性の場合、照射は平日の5日間で全35回。1回当たりの照射時間はわずか2、3分で、「痛みはもちろん、何も感じない。高額な治療も対象となる民間保険に入っていたので、費用も気にせずに済んだ」と話す。

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 同センター(鉄筋コンクリート地上3階、地下1階延べ約3900平方メートル)は、国内11カ所目の陽子線治療施設として、約60億円かけて整備。2016年3月に開設し、4月28日に治療をスタートさせた。運用は、国内で240以上の関連病院を持つ岡山大病院(岡山市北区鹿田町)と共同で行っている。

 7月15日現在、222人の紹介を受理。県内は134人で、岡山以外の中四国から72人、近畿、九州など13人、海外も3人いた。紹介を受けると、同センターの放射線治療医が、陽子線治療が適当かどうかを判断。これまでに前立腺、肝、肺がんを中心に115人が照射終了もしくは照射中で、32人が待機している。同センターによると、多くの患者でがん病巣に一定の治療効果が見られたという。

 陽子線の場合、通常の放射線治療と違って嘔吐(おうと)などの副作用や全身麻酔のリスクがないことから、成長過程の子どもへの治療法として期待が高い。小児受け入れには、医師や看護師らが先進地の筑波大付属病院(茨城県つくば市)に出向いてノウハウを積んできた。

 9人の小児がんに対する照射を終えており、藤木茂篤総院長は「治療中でも鬼ごっこができるくらい元気になった子どもたちの姿を見ると、陽子線の果たす役割の大きさを感じている」と強調する。

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 人口減社会の中、県北の基幹病院としての役割を果たすべく、外国人患者に注目している。足掛かりとして、4月に外国人の受け皿となる専門部署「国際医療支援センター」を設置し、日本語の話せる中国人医師や事務スタッフを採用した。

 英語による問診票や同意書といった文書類の準備、電話での問い合わせに14カ国で応対できるシステムの導入なども並行して進めた。既に中国人医師が仲介役となり、中国、韓国人への治療を済ませており、将来的には患者全体の1割を外国人で占めたいという。

 課題は優秀な人材の確保。現在のスタッフは放射線治療医3人、看護師6人、診療放射線技師8人、医学物理士、中国人、台湾人が各1人の計20人で、初年度の照射目標だった100人は達成したが、開設5年後の21年度の目標として掲げる250人は現体制では厳しい。国外にも広く陽子線治療の特性をアピールし、実績を積みながら医療従事者を呼び込みたい考えだ。

 藤木総院長は「放射線治療医以外にも、豊富な専門医が所属しているのが総合病院の強み。従来の手術と化学療法に合わせ、陽子線治療も提案できる『がんに強い病院』を目指す」と話している。

 陽子線治療 放射線治療の一種。水素の原子核を加速し、がん病巣の大きさや深さに合わせピンポイントで破壊できるのが特長。正常な細胞への影響が抑えられる上、入院の必要もなく、日常生活を続けながら治療もできる。陽子線を正確に当てるため、事前に型取りしていた「シェル」と呼ばれる器具で体を固定し、陽子線を照射する。費用は照射回数にかかわらず約288万円で、小児がんは保険適用となる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年07月29日 更新)

タグ: がん津山中央病院

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