文字 

(5)大動脈瘤の外科治療 心臓病センター榊原病院心臓血管外科部長 田村健太郎

田村健太郎心臓血管外科部長

回復早いステントグラフト

 大動脈瘤(りゅう)は、全身に血液を送り出す動脈の本幹である胸部大動脈や腹部大動脈がこぶのように拡張したものです。この病気が恐ろしいのは破裂してしまうとなかなか救命できないこと、そして破裂するまで痛みなどの症状がほとんどないことです。したがって破裂する前に大動脈瘤を発見し、治療することが重要です。

 動脈瘤は風船と同じように、大きくなればなるほど壁が薄くなり、大きくなりやすく、破裂しやすくなります。一度大きくなった動脈瘤は薬で小さくなることはありません。胸の動脈瘤(胸部大動脈瘤)なら5・5~6センチ、おなかの動脈瘤(腹部大動脈瘤)なら5~5・5センチで手術を考慮しますが、動脈瘤の形(いびつな形の動脈瘤は破裂しやすい)や大きくなるスピード(速いほど破裂しやすい)などで総合的に判断します。

 大動脈瘤の外科治療には大きく分けて、開胸もしくは開腹を伴う人工血管置換術(オープン手術)と血管内治療(ステントグラフト治療)があります。胸やおなかを切らずに動脈瘤が治せるなんて、魅力的ですね。

 ステントグラフト治療は足の付け根の血管から特殊な金属のバネがついた人工血管(ステントグラフト)を縮めた状態で大動脈瘤まで到達させ、動脈瘤の内側で拡張させるという方法です。胸やおなかを切開しないため、圧倒的に回復が早いのがステントグラフト治療の利点です。心臓病センター榊原病院では最短2泊3日で退院することが可能です。このステントグラフト治療のおかげで、超高齢者や重篤な病気を持っておられる方など、今まで治療不可能とされていた患者様も治療ができるようになってきました。若い方でも術後早期に仕事や家事に復帰できるなどメリットは大きいでしょう。

 ステントグラフト治療はステントグラフト自体が進化してきており、より安全・確実になってきていますが、いまだ万能というわけではありません。高度の屈曲など動脈瘤の形がよくない場合は、ステントグラフトと自分の血管との接着が悪くなり、瘤内に血液が漏れることがあります(エンドリーク)。瘤が再び大きくなってくるようであれば、再治療が必要になります。術後しばらくたってからステントグラフトが移動してエンドリークが起こることもあるので、術後定期的なフォローが必須です。

 一方、オープン手術の特徴はその確実性にあります。人工血管を自分の血管に直接縫い付けるため、一度で治療が終わることが多いのが利点です。ただし開胸・開腹を伴うため患者様への負担は大きく、高齢者ではリハビリに時間がかかることがあります。動脈瘤の位置や性状によってはオープン手術がより安全と判断される場合があります。動脈の壁にアテロームと呼ばれる脂肪性物質が沈着している場合、多くはオープン手術が選択されます。血管内治療ではアテロームが遊離して末梢の血管を詰まらせてしまうことがあるためです(塞栓症)。特に脳に分枝する血管が近い動脈瘤(上行・弓部大動脈瘤)では脳梗塞の危険性があり、オープン手術が第一選択となります。

 このようにステントグラフト治療とオープン治療にはそれぞれ特徴があり、治療法の選択は重要です。年齢や併存疾患、動脈瘤の位置や範囲、形状などを考慮し、その人にとってどの治療法が最も安全なのかを適切に判断し、よりよい治療を提供するのがわれわれの使命です。

     ◇

 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 たむら・けんたろう 岡山中学・高等学校、愛媛大学医学部卒。広島大学第一外科、国立病院機構呉医療センター、心臓病センター榊原病院、オー・レヴェック循環器病院(フランス)、広島市立安佐市民病院などを経て、2011年4月より現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年08月07日 更新)

ページトップへ

ページトップへ