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(6)心不全の診断と治療

林田晃寛循環器内科部長

平岡有努心臓血管外科部長

心臓病センター榊原病院循環器内科部長 林田晃寛

チームで総合的に判断

 心不全というと心臓の動き(収縮能)が悪くなっている状態が頭に浮かんできますが、心臓の動きが良いにも関わらず、心不全を引き起こす病態が、最近知られるようになってきました。心臓の動きが悪くなった心不全と同様に、労作時の息切れ、むくみなどの症状があらわれます。多くは、不整脈、腎臓の機能が低下、貧血を合併しているなど、複合的な病気の問題であり、診断と治療には総合的な判断が必要になります。

 心不全の診断には、心臓の動きが良いのか、悪いのかで大まかに治療方針が異なりますので、まずは心エコー図検査や心電図を行います。異常があれば、心臓MRI、冠動脈CTなどで、詳細に心臓と全身の状態を調べることが必要です。

 心不全の治療にあたっては、心不全発症前から治療を開始することが重要です。すなわち、心不全に至る症例の多くは、高血圧、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病があり、これらの疾患があるだけですでに心不全予備軍として治療を開始する必要があります。心臓の動きが良い心不全には、主に血圧の治療を、心臓の動きが低下した心不全にはβ遮断薬を中心に加療します。むくみの兆候があれば利尿薬を検討します。

 十分な薬物療法を行った後、虚血性心疾患が原因であればステント留置術などで心筋虚血の解除を、心房細動などの不整脈が原因であればカテーテルアブレーションを、弁膜症が原因であれば手術療法を考慮します。その他の非薬物療法も重要であり、並行して行います。酸素療法、両心室ペースメーカーなど、病態に応じて考慮します。心臓リハビリテーションは、足腰が弱るのを防ぐだけではなく、心不全の改善に非常に有用であることが示され、理学療法士による指導を受ける事が重要です。

 入院中に症状が改善しても、次の外来では症状が悪化していたり、再入院になったりする例も少なくありません。原因として、内服が適正に行えないことや医療費の問題、住居環境の問題など、医師だけでは解決できない問題も多いです。そのため、すべての医療関係者の力を結集(心不全チームと呼ばれています)し、心不全を診療していくことが重要です。

重症心不全に対する外科治療
心臓病センター榊原病院心臓血管外科部長 平岡有努


移植適応に補助人工心臓検討

 内科的治療が最大限されてもコントロールの難しい重症心不全の方に対しては、その原因を外科的に治療する適応になることがあります。虚血性心筋症であれば冠動脈の血行再建、僧帽弁逆流に対しては僧帽弁手術、左室の著しい拡大に対しては左室形成術などです。

 一方で、手術によっても改善が難しく年齢や他の併存疾患の有無などから心移植の適応となる方に対しては、左室補助人工心臓(LVAD)治療の適応が検討されます。LVADとは左室心尖(せん)部から脱血し上行大動脈に送血することで、左室の完全な補助を目的とする装置です。

 大きく分けて体外設置型LVADと植込型LVADがあり、体外設置型は急性心不全に対する短期デバイス、植込型は長期使用デバイスです。回復が期待される場合は離脱を目指しますが、回復・離脱が困難な場合、移植申請を通過した上で植込型LVADへの移行が検討されます。植込型は日本では心臓移植までの待機中使用Bridge to Transplant(BTT)の適応のみ保険償還されています。そのため、移植認定を受けることができない場合は原則、適応になりません。

 現行のデバイスに加えて、さらに進化した次世代機が開発されており、移植適応患者以外でもLVADを最終治療(Destination Therapy)とする動きが日本でも調整されています。

 当施設は2017年5月から植込型補助人工心臓管理施設認定を取得し、植込型LVADで移植待機中の方の入院・外来管理ができるようになりました。来年には植込型LVADの実施施設認定取得を目指しています。これからも技術の進歩とともに、一人でも多くの重症心不全でお困りの方の治療につながることを願うばかりです。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 はやしだ・あきひろ 福岡県立福岡高校、九州大学医学部卒。県立宮崎病院、下関市立中央市民病院、九州大学、福岡東医療センター、川崎医科大学を経て、2014年4月から現職。

 ひらおか・あるど 京都府洛星高、京都大学医学部卒。田附興風会北野病院、京都大学付属病院などを経て2007年より心臓病センター榊原病院勤務。12年から米国ペンシルバニア大学心臓血管外科へ留学、15年大阪大学心臓血管外科助教。16年より現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年08月21日 更新)

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