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(36)緩和ケア 岡山済生会総合病院 石原辰彦 緩和ケア科診療部長

石原辰彦緩和ケア科診療部長

がんの苦しみ チームで支え

 ―緩和ケアの役割は何でしょうか。

 石原 かつて末期がんを患った医師が、一編の詩を残しています。がんは突然死ぬ病ではないからこそ、やり残したことをやり、周囲の人に感謝を伝えることができる「貴重な時間」があると。その大切な時間を使って患者さんが望みをかなえられるよう、がんに伴う苦しみを少しでも取り除くのが緩和ケアの役割です。「孫を抱っこしたい」「トイレに自分で行きたい」など、人によって望みはさまざまですが、苦しみを和らげることで、最期までその人らしい生き方ができるよう支えています。

 がんの苦しみの代表が痛みです。痛みは、がんの進行度とイコールではありません。痛みがあるタイミングで適切なケアを行っていけば、患者さんの心身の状態を改善し、少しでも快適に過ごせる期間が長くなります。

 ―岡山済生会総合病院に緩和ケア病棟ができて19年ですが、緩和ケアを取り巻く環境は変化しましたか。

 石原 かつては医療用麻薬のモルヒネを使い、緩和ケアの専門医が入院治療を行うのが主流で、緩和ケア病棟はみとりの場でした。その役割自体は大切なものに変わりありませんが、現在は自宅や他の療養場所へ移るための治療の場にもなっています。国が進める「がん対策推進基本計画」に基づき、がん診療に携わる多くの医師が「緩和ケア研修会」を受けて知識を深めているので、専門医だけでなく、主治医も積極的に痛みの治療を行うようになりました。モルヒネなどオピオイド鎮痛薬の種類が増え、内服薬や貼り薬などさまざまな選択肢ができたことで、多くの患者さんが外来でケアを受けています。

 ―主治医も痛み治療に取り組む中で、専門医に求められるものは。

 石原 重症度が高く痛みのコントロールが難しい症例には積極的に関わる必要があります。ただ、これは専門医だけではなく、看護師や薬剤師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、リハビリスタッフなどでつくる緩和ケアチームで治療方針を検討します。緩和ケア病棟に限らず、一般病棟の入院患者については、週1回の「緩和ケア回診」でカルテをチェックし、オピオイド鎮痛薬を使用している場合は、より効果が出る薬の使い方や量を主治医に助言します。当院では今年4月から、常勤医が1人増えて3人となり、外来と合わせてより手厚い緩和ケアを提供できるようになりました。

 ―患者側の意識は変わったのでしょうか。

 石原 それは難しい課題ですね。緩和ケアを提案すると、暗い顔になる患者さんは今も少なくありません。「がんを治す手立てがなくなった時の治療」という誤解は根強くあります。麻薬に依存してしまうのではないか、一度薬を使い出したら際限なく量が増えるのではないかという不安も大きいようです。

 ―実際には、鎮痛薬の使用を途中でやめることもあるのですね。

 石原 がんの進行度にかかわらず、痛みが強い時には積極的に薬でコントロールし、化学療法や放射線治療などで腫瘍を小さくして痛みが改善すれば、薬を減らしたり、やめたりして経過をみます。緩和ケアという言葉に落ち込む患者さんでも、実際には主治医から既に鎮痛薬が処方されている場合が多く、「あなたはがん治療と同時に、既に緩和ケアを受けているんですよ」と説明するなど、緩和ケアへの誤解を解くよう努力しています。

 ―緩和ケアを受ける際、患者側が心掛けることを教えてください。

 石原 緩和ケアは「医師におまかせ」ではうまくいかない医療です。痛みは患者さん本人にしか分かりませんし、CTなど画像検査で腫瘍が見えても、痛みの程度は見えません。同じがんの種類でも、腫瘍の大きさや場所、患者さんの感じ方によって痛みは異なりますから。ただ、現在行っている化学療法などに望みをかけている患者さんは「痛みを訴えて治療をやめられると困る」と思うあまり、つらさを我慢してしまうことがよくあります。

 痛みが出た段階から、痛みが治まるまで訴え続けてほしいと思います。どのくらいの強さでどんなタイプ(ズキズキ、チクチクなど)の痛みか、いつから続いているかなどを医師たちに伝えてください。医療者側も訴えに応じて薬の種類や組み合わせを変えるなどして対応することができます。また患者さんの目線になって話を聞くなど、医療者側もなるべく話しやすい環境をつくるよう、心掛けていきたいと思います。

     ◇

 岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町2の25、086―252―2211)

 いしはら・たつひこ 金光学園高、自治医科大医学部卒。矢掛町国保病院、成羽町国保病院などを経て1997年から岡山済生会総合病院勤務。2014年から現職。日本緩和医療学会暫定指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。53歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年08月21日 更新)

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