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(1)幅広い脳神経外科領域 岡山旭東病院脳神経外科部長 中嶋裕之

顕微鏡下脳外科手術

中嶋裕之脳神経外科部長

 脳神経外科が扱う疾患は多岐にわたります。当院では神経内科が充実しており、脳神経外科は手術に関係する疾患の診療に集中できる環境にあります。具体的には、くも膜下出血、未破裂脳動脈瘤(りゅう)・脳内出血、もやもや病などの脳血管障害、脳・脊髄腫瘍、頭部外傷、顔面痙攣(けいれん)や三叉(さんさ)神経痛、頸椎(けいつい)椎間板ヘルニア・頸椎症などを治療の対象にしています。脳梗塞は主として神経内科が担当していますが、合同カンファレンスを行い、外科的治療が必要な症例は脳神経外科で治療しています。

 脳動脈瘤は症例に応じ開頭手術(クリッピング術)あるいは血管内手術をおこなっていますが、クリッピング術の件数は長年中四国でトップクラスの実績です。安全にクリッピング可能と思われる動脈瘤に対してはクリッピング術を選択することが多く、未破裂脳動脈瘤では約10日の入院となります。近年は血流の状態をリアルタイムで観察できる術中蛍光造影、モニタリングなどを用い安全第一に行うため、永続的な合併症を生じることはほとんどありません。血管内手術については、年齢、動脈瘤の部位・大きさに応じて選択しており、岡山大学脳神経外科血管グループの協力を得て行っています。

 その他の脳血管障害には脳出血に対する血腫除去術、閉塞性疾患に対する血行再建術・頸動脈内膜剥離術などがあります。これらは脳卒中ガイドラインに沿って治療していますが、近年の変化として、血管内手術による頸動脈ステント留置術の進歩・症例数の増加が挙げられます。また、内科治療(薬剤)の進歩などにより血行再建(頭蓋内外バイパス)術自体は減少傾向ですが、もやもや病はMRIの普及により見つかることが多くなり血行再建術は今後も重要な治療法であり続けると思われます。

 脳腫瘍は腫瘍の種類、発生部位により、非常に多くのバリエーションがありますが、症例に応じて手術および、化学療法、(定位的)放射線治療などを行っています。脳腫瘍手術もナビゲーションシステムという手術中画像上でリアルタイムに操作部位が識別できる装置や、術後の麻痺(まひ)出現など危険予知のための術中モニタリングを用い、安全にできるようになってきています。

 また、顔面のぴくつき(片側顔面痙攣)と三叉神経痛(顔面の電撃痛)もまた、脳神経外科手術の対象となる疾患です。片側顔面痙攣は生命に関わる病気ではありませんが、社会生活に影響するようであれば治療を検討します。薬では治らず、ボトックスという顔面への注射か手術になります。三叉神経痛は、薬がある程度有効ですが、痛みは耐えがたく多くの場合で手術が有効です。また、脊椎疾患も腫瘍などのほか、頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症も扱っています。手のしびれ・脱力などは頸髄疾患から来ている可能性もありますので、脳病変の除外を含め、病院受診をお勧めします。

 その他、認知症は当院では主に神経内科で診ていますが、“治療できる認知症”として慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症が挙げられます。慢性硬膜下血腫は高齢化社会において特によくみられる疾患です。特発性正常圧水頭症は、認知機能低下に加え歩行障害(小刻み歩行で左右幅が広くなる)が前面に出ることが特徴的であり、ある程度画像で診断可能ですが放置されていることも多いと思います。比較的簡単な手術で改善する可能性がありますので医師へご相談ください。

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 岡山旭東病院(086―276―3231)

 なかしま・ひろゆき 岡山大学卒。ニューヨーク留学、岡山大学脳神経外科講師、岡山市民病院脳神経外科部長・脳疾患センター長を経て現職。日本脳神経学会専門医・代議員、日本脳卒中学会専門医、日本脊髄外科学会認定医、臨床研修指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年09月04日 更新)

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