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(37) 脊椎・脊髄疾患治療 岡山労災病院脊椎脊髄センター 田中雅人センター長・副院長

田中雅人センター長・副院長

最新装置生かす技術や経験

 ―4月に岡山大学病院から岡山労災病院に着任し、脊椎脊髄センターを開設されました。どのような特色がありますか。

 田中 脊椎、脊髄に関係する手術は難易度の高い症例が多く、高精度の技術が求められます。そういった手術に対応するため、当センターでは西日本の医療機関で初となる最新装置「O―arm(オーアーム)2」を導入しました。手術室で術中に3次元のCT撮影ができるので、実際の患者さんの体内と画像との間に誤差がほとんどありません。その画像を使い、コンピューターのナビゲーションに従ってスクリューの埋め込みなどを行うので、安全かつ正確に手術ができます。

 ただ、医師の技術や経験、マンパワーがなければ最新装置の力を最大限に生かすことはできません。当院の整形外科には10人以上の医師がいますし、センターでは脊椎・脊髄疾患の専門医2人と研修医1人、10月からは専門医を1人増員して治療に当たります。当院の脊椎・脊髄疾患の手術数は年間140例ほどでしたが、センター設立で大幅に増え、本年度は500例ほどになりそうです。背骨が曲がる脊柱変形の治療に積極的に取り組んでおり、側彎(そくわん)症や高齢者の腰曲がり(後彎症)の患者を多く受け入れています。また私の専門分野の一つである背骨や脊髄の腫瘍治療にも力を入れています。

 ―側彎症はどのような疾患ですか。

 田中 背骨が横方向に曲がる疾患で、約8割は原因不明の「特発性」と呼ばれています。発生頻度は2~3%で、小学校高学年から思春期に多いとされ、女子は男子に比べ7倍も発症しやすいのが特徴です。通常は背骨の痛みなどはないのですが、湾曲が30度を超えると、患者さんは外見に対して悩みを抱えやすくなります。一般的には大人になると湾曲の進行は止まりますが、50度を超えると骨の成長が終了してもさらに曲がってくるので、将来を見据えて手術を提案します。背中か脇腹を大きく切開し、背骨にスクリューを埋めて棒状のロッドで連結し、曲がりを矯正します。成長期の子どもには伸縮するロッドを使い、身長の伸びに合わせて半年~9カ月ごとに調整します。手術の有無にかかわらず、20歳ごろまでは定期的に診察して、慎重に経過を見守るようにしています。

 ―高齢者の腰曲がりも治療できるのですか。

 田中 昔は年を取ると腰が曲がって当たり前、腰が痛くて当たり前、という捉え方でしたが、今は治せます。実際、受診される患者さんは「痛くて歩けない」「5分と立っていられない」ということも多いのですが、手術がうまくいけば症状がとれて生活の質(QOL)が大きく改善します。高齢の患者さんは負担を少なくするために手術を2回に分けて行い、ごく小さな切開で人工骨とスクリューを埋め込みます。出血量も極端に少ないので、術後の回復が早くなります。痛みがなくなるだけでなく、明らかに姿勢がよくなるので「若返ったようだ」と喜ぶ患者さんもいます。

 ―患者の体に負担の少ない手術が増えているのですね。

 田中 近年の脊椎・脊髄疾患治療は「最小侵襲」がキーワードであり、さまざまな技術が登場しています。例えば当院では、腰椎椎間板ヘルニアを内視鏡を使って治療していますが、5月には通常の内視鏡よりさらに小さい器具を使い、局所麻酔で手術ができる「PED」という最新装置も導入しました。手術自体の難易度は上がりますが、約1センチ以下と非常に小さい切開で、手術できるようになっています。

 ―先生が専門とする背骨の腫瘍はどのように治療するのでしょうか。

 田中 背骨の腫瘍は激しい痛みやまひを引き起こすため、患者さんのQOLに大きく関わることから、早く発見し、適切に治療することが必要です。骨部分にできる脊椎腫瘍は肺がんや乳がんから転移したものがほとんどで、まひを防ぐために骨を固定する治療などが主となります。骨の中を通る中枢神経部分にできる脊髄腫瘍は取り除く必要がありますが、治療の難易度が高いため、高性能の顕微鏡を使って手術します。

 ―手術で痛みなどがとれないケースはどのように対応するのですか。

 田中 局所麻酔薬を使って痛みの伝達を抑える神経ブロックなどに加え、近年では、体内に埋め込んだ電極から脊髄に微弱な電気刺激を与えて痛みを軽減させる脊髄刺激療法(SCS)など最先端の治療も出てきています。SCSは適応症例が限られており、当院ではまだ実施例がありませんが、治療の選択肢自体は確実に増えています。

 ―センターの今後の目標を聞かせてください。

 田中 脊椎・脊髄疾患の手術を希望して、中四国から多くの患者さんが来られる一方で、手術が怖いと言って別の治療を希望される人も多くいます。患者さんのニーズに合わせて、医学的根拠のある複数の選択肢を示し、患者さんが納得できる医療を選べることが大切だと感じています。地域に密着した病院として、地域で困っている人たちに世界最先端の医療を提供し、いずれは中四国地域において脊椎・脊髄治療の拠点となることを目指したいと考えています。

     ◇

 岡山労災病院(岡山市南区築港緑町1の10の25、086―262―0131)

 たなか・まさと 愛媛県立三島高卒、岡山大大学院医学研究科外科課程修了。国立病院機構岡山医療センター、岡山大学病院などを経て、2017年4月から現職。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医。日本成人脊柱変形学会会長、日本脊椎インストゥルメンテ―ション学会幹事などを務める。53歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年09月18日 更新)

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