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胸部(むね)と腹部(おなか)のがん―こんなサインには要注意

川崎医科大学総合医療センターが開催した第10回開院記念市民公開講座。「胸部と腹部のがん―こんなサインには要注意」をテーマに4人の医師が講演。大勢の人々が熱心に聞いた=9月16日、川﨑祐宣記念ホール

深澤拓也外科副部長

山辻知樹外科副部長

浦上淳外科副部長

羽井佐実外科副部長

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第10回開院記念市民公開講座が9月16日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。「胸部(むね)と腹部(おなか)のがん―こんなサインには要注意」をテーマに、いずれも同病院の外科副部長を務める深澤拓也氏、山辻知樹氏、浦上淳氏、羽井佐実氏の4人が講演した。

もっと知ろう肺がんの話―その種類と症状
外科副部長 深澤拓也


 日本人のがん死亡の中で現在一番多いのが肺がんで、男女あわせて7万人を超える方がこの病気で亡くなっています。それゆえもっとも私たちの身近に潜んでいるがんといえます。

 一口に肺がんと言っても組織の特徴に応じて4種類に分けられ、症状や経過は患者さんによって異なります。肺の入り口にできる肺門型と呼ばれるがんと、比較的周辺部にできる末梢型があります。

 肺門型は、たばこに深く関係する扁平(へんぺい)上皮がんが多く、咳(せき)や血痰(けったん)がその症状です。がんが気管をふさぎ、肺に空気が入りにくくなって細菌が増殖し、肺炎になることが少なくありません。

 末梢型は腺がんが代表格で、肺がんの約6割を占めています。エックス線画像では、すりガラスのような淡くて小さな影が見えます。症状が出にくいので見つかった時には進行している場合が多く、早期発見・早期治療が大切です。

 肺がんが怖い病気と言われる原因は、浸潤と転移が早期から起こるところにあります。浸潤とは、がんの接する正常な細胞や組織で増殖を起こした状態です。さらに進行して、血管やリンパ節にも浸潤すると、その流れに乗って他の臓器へ転移します。転移は血管やリンパがある場所ならどこでも起こる危険があり、骨や脳、腹部臓器などにも起こります。転移後は治療をしてもがん細胞が残る可能性が高くなり、手術をして治すことができなくなってしまいます。

 肺がんは肺の細胞の中にある遺伝子が傷つくことで生じます。その原因の代表的なものが喫煙と受動喫煙です。発症のリスクを下げるには、まずは禁煙ですが、吸わないからといって肺がんと無縁とは言い切れません。40歳以上の方には年に1回は検診をお勧めします。

食道がんと胃がんの話―ごはんが通らない?
外科副部長 山辻知樹


食道がん

 食道の内側は扁平(へんぺい)上皮という粘膜に覆われていて、日本人の食道がんの95%は扁平上皮がんです。50~70歳代の男性に多くみられます。肺がんなどに比べて罹患(りかん)率は高くありませんが、5年生存率は42%で危険な病気です。

 早期の食道がんは不快感、違和感を訴える人はいるものの多くは無症状です。進行すると食事や水が通りにくくなり、胸や背中の痛みが出ることもあります。その原因はまだわかっていませんが、飲酒や喫煙との関係が指摘されています。飲酒によりすぐ顔が赤くなる体質(フラッシャー)の人は食道がんになりやすいと言われています。

 内視鏡診断技術の進歩に伴い早期で診断され、内視鏡切除が可能となる場合も増えてきました。かつて食道がんの外科手術は体への影響が大きいと考えられてきましたが、近年は胸腔鏡(きょうくうきょう)手術など、低侵襲手術が進歩してきています。

胃がん

 胃がんは日本人に多く、塩分が多いなどの食生活が関与しているとされてきました。最近研究が進んだのがヘリコバクター・ピロリ菌との関係です。ピロリ菌は胃十二指腸潰瘍を引き起こす原因として発見されましたが、胃がんの多くはピロリ菌の除菌で予防できることがわかってきました。今の若者には保菌者は少なく、胃がんは減るのではないかと考えられています。

 胃がんに対しても低侵襲な内視鏡手術や機能温存手術が進歩してきました。治療が困難であった切除不能・再発胃がんについても、分子標的薬(がん細胞が持っている特定の分子をターゲットに、その部分にだけ作用する薬)などの進歩により、治療選択の幅が広がっています。

サインのない怖いがん
外科副部長 浦上淳


 膵臓(すいぞう)がんは、初期症状が非常に少ないことで知られています。進行が早く、転移しやすかったり、5年生存率も膵臓がん全体では10%を切っているのが現状です。日本では年間約3万人が亡くなっています。

 膵臓は胃の背側、つまり体の奥深くに位置するため、がんが発生しても症状が現れにくく、検査が難しいという特徴があります。膵臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。

 さらに厄介なことに、早い時期に進行しやすいという性質も持っています。厚さが2センチほどの臓器のため、すぐに膵臓から周囲の組織へ広がってしまいます。また太い血管やリンパ管、神経などが取り巻いているため、その流れに乗ってがん細胞が早い時期から転移しやすいのです。

 初期は無症状でも、進行するにつれて現れやすい症状は食欲の低下、胃腸の不快感、胃やみぞおちの違和感などです。ただ、これらは漫然とした症状なので、さほど深刻に受け止められず、医療機関の受診につながりにくいと思われます。

 自覚症状がなくても、定期的に検査を受けることが、早期発見のための唯一の方法です。採血による腫瘍マーカーの検査や腹部超音波検査、次の段階として腹部CT検査があります。

 治療は外科療法(手術)と化学療法(抗がん剤)が中心です。一般的にはまず切除手術をして、術後に化学療法を行います。切除手術は、膵頭部がんでは膵頭部、十二指腸、胆管、胆嚢(たんのう)を切除する膵頭十二指腸切除術、膵体尾部がんでは膵体尾部と脾臓(ひぞう)を切除します。

 手術のポイントは膵臓と腸をつなぎ合わせる、膵空腸吻合(ふんごう)です。吻合部で膵液瘻(ろう)(膵液の漏れ)や出血といった合併症が一番心配ですので、これを防ぐため、さまざまな努力を重ねています。

救急とおなかの症状―がんが心配ですか?
外科副部長 羽井佐実


 大腸がんは日本人の食習慣の変化とともに増えています。がんは体の中に発生してから徐々に大きくなり、浸潤、転移を起こしつつ進行しますが、早期のものであるほど体に優しい方法で治療でき、治る可能性も高くなります。

 診断がつくきっかけはさまざまですが、症状がなく「がん検診」で見つかる人▽気になる症状があって「一般・専門外来」で見つかる人▽強い症状があって「救急外来」を受診して見つかる人がいます。

 症状は、血便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細いなどが大きな特徴です。おなかが張る、腹痛、吐き気などの症状もありますが、これはある程度進行してがんが大腸の内腔(ないくう)を塞いだ通過障害(腸閉塞)の症状であることが多く、さらに進行して貧血があったり食欲がなくなってくると、全身症状として現れてきます。気になる症状を放置していると、強い症状となって救急外来を受診することになります。

 ただ、救急外来は、あくまで緊急の症状に対応するための場であり、必ずしもがんの専門医が診察するわけではありません。目標はすぐに対応(入院や緊急手術など)しなければならない病状かどうかを判断することで、がんを見つけることではありません。精密検査を行うことはなく、後日専門外来の受診をお勧めすることになります。

 症状が一時的に良くなったからと放置すれば結局治療開始の機会を失うことになります。腹膜炎などの強い症状で入院、緊急手術になった場合も診断がついたからといって安心はできません。緊急時の治療は、がんを根治的に治療することよりも救命を最優先にし、人工肛門を造ったりすることも多いからです。

 心配であれば、気になる症状が出た時点での受診や検診をお勧めします。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月02日 更新)

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