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(3)急性期病院における認知症診療 岡山旭東病院神経内科主任医長 北山通朗

北山通朗神経内科主任医長

 厚生労働省の推計=表1=では、2025年には65歳以上高齢者の約2割(約700万人)が認知症を発症するといわれています。当院神経内科でも、昨年約6千人の外来新患患者のうち900人以上を認知症と診断しました。

 認知症とは「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」(認知症疾患診療ガイドライン)をいいます。この認知機能とは、記憶だけではなく、注意、遂行機能、言語、視空間認知、行為、社会的認知などを指します。従って、認知機能の低下があっても軽度なため、日常生活や社会生活に支障をきたしていなければ認知症とはいえません。また、記憶障害が無くても認知症の可能性はあるということです。

 表2に認知症の原因となる疾患をあげています。三大認知症といわれる「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」だけではなく、これら多くの鑑別疾患の中から、早く正確に診断し治療に結びつける必要があります。

 外来では、もの忘れや認知症を心配して受診された方に対して、(1)病歴を詳しく聞き取り(問診)、(2)各種検査(血液検査、認知機能検査、画像検査)をできる限り当日中に行い診断するよう心がけています。

 病歴は、認知症の診療の中で最も重要な情報です。いつ頃から、どのような症状があり、どのように進行しているのかは疾患そのものの特徴につながり、十分な病歴からは診断を推測することもできます。また、内服薬が認知機能低下に関わることもあり多剤を併用されている方は注意が必要です。短い外来診察の中で、全ての情報をその場で伝えることは難しいため、気になる症状や経過などは来院時の問診表だけではなく、家でメモしていただき担当医に渡していただくように勧めています。

 血液検査は、肝・腎機能を含む一般的な項目から、認知症の原因となるビタミンや甲状腺ホルモン等を調べます。認知機能検査は、現在の認知機能を大まかに把握するために行います。当科ではMMSE(Mini―Mental State Examination)、長谷川式簡易知能評価スケール、FAB(前頭葉機能検査)といった簡易的スクリーニングに加え、やや複雑なリバーミード行動記憶検査等も施行し評価します。30分程度で行うことができ、昨年は約3千人の方が認知機能検査をされました。

 画像検査は、MRI(核磁気共鳴画像)を基本に、まず脳内の異常(脳血管障害や脳腫瘍など)や萎縮の程度を調べます。また、VSRAD(早期アルツハイマー病診断支援システム)を用い、大脳(特に海馬)の萎縮の程度を判定します。さらに鑑別が必要な場合は、RI(核医学)検査として、脳血流を評価する脳血流SPECT、レビー小体型認知症等を鑑別するためにダットスキャン、MIBG心筋シンチグラフィーを行っています。今後は、アルツハイマー病診断に関連したアミロイドPETの導入も予定しており、より精度の高い診断を目指しています。

 一方、認知症は、診断・治療以外に、精神症状等BPSD(認知症の行動・心理症状)への対応、ケアの問題、終末期の対応等さまざまな問題をかかえています。今後、認知症患者がさらに増えることが予想される中、当院のように急性期医療を中心とした専門病院においても、地域との連携を密にし、認知症を持つ方々が暮らしやすい社会に貢献できるよう努力する必要があると思っています。

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 岡山旭東病院(086―276―3231)

 きたやま・みちお 鳥取大学卒。鳥取大学脳神経内科助教を経て現職。岡山大学神経内科診療講師、鳥取大学医学部非常勤講師。日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本臨床倫理学会認定臨床倫理認定士(臨床倫理アドバイザー)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月02日 更新)

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