文字 

(4)乳がん 津山中央病院外科部長 野上智弘

乳がん患者に対する乳房全摘術

野上智弘外科部長 

 現在、乳がんは女性が罹患(りかん)する悪性新生物の第1位で、年々増加傾向にあり、2016年に新たに乳がんと診断された患者数は9万人と推定されております。乳がんの特徴の一つは患者さんの年代です。他のがん腫は年齢とともに増えるものが多いのですが、乳がんは30歳代から増加し40~50歳代後半で特に多くなっています。また最近では60~80歳代の患者さんも増加傾向にあります。

 昔は乳がんは局所の病気と認識されていました。がん周囲の組織をできるだけ多く切除すれば治ると考えられ、手術が主たる治療とされていました。しかし、世界中で乳がんに対する疫学的な研究や分子生物学的な研究が進み、現在は全身の病気と認識して治療にあたるようになっています。また、それらの研究をもとに新しい薬の開発がなされ、治療の根本は薬物療法にシフトしてきております。

 ただ現段階では薬のみで完全に治すことはできず、外科的に病巣を取り除くことの重要性は変わっていません。また術後に放射線治療を追加することで根治性を上げられる症例もあります。手術および放射線療法は局所の治療、薬物療法は全身の治療と位置づけられており、局所療法と全身療法を適切に組み合わせた「集学的な治療」をすることが重要となります。

局所療法

 乳がんの手術方法としては大きく分けると部分切除(腫瘍とその周囲の乳腺組織のみをとる)と乳房全摘の二つに分けられます。また腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節に転移があるか否かで必要となる治療が変わってきますので腋窩リンパ節の評価も重要です。原則としては部分切除をした場合は術後に残った乳腺組織に放射線をあてる必要があります。乳房全摘した場合でも腋窩リンパ節に転移があった場合には放射線治療の追加が必要となります。

 乳房の喪失は女性のQOLに影響しますので、乳房の再建も考慮すべきであります。乳房全摘したのちに胸の膨らみを取り戻す方法として乳房再建があります。人工物を用いる方法や自分の組織を使う方法があります。乳房を再建する場合、がんの手術と同時に行う方法(一次再建)と、乳がんの治療が一段落してから再建する方法(二次再建)があります。

全身療法(薬物療法)

 全身療法としてはホルモン療法、化学療法(抗がん剤)、分子標的薬があります。これらの薬を適切に組み合わせることで乳がんで命を落とす可能性を下げることができます。

 ホルモン療法は比較的副作用が少なく、女性ホルモンの刺激で成長するタイプの乳がんに対して用いられます。化学療法は副作用は強いですが、あらゆる性質の乳がんに対して使用されます。ただ、再発の危険性が低い患者さんでは不要です。分子標的薬はがん細胞の表面に発現した特定のタンパク質を直接攻撃することでがん細胞をやっつけます。副作用が少なく適応のある乳がんには非常に効果的です。これらの薬剤には特有の副作用などがあり、適切なマネジメントやケアを要するため、医師はもちろん看護師、薬剤師からなる多職種チームによる関与が重要になります。

 津山中央病院は本年4月より乳腺外来を標榜(ひょうぼう)いたしました。9月からは乳房再建の一次・二次再建の両方の施設認定を得ております。乳がんの治療は「集学的な治療」が必要です。手術療法・放射線療法・薬剤療法を過不足なく行って初めて治療したと言えます。

 当院は各分野の専門医・専門スタッフ・検査治療設備がそろっており、乳がんに対するきっちりとした診療体制が整っています。安心して治療を受けられる環境づくりを心がけて日々の診療にあたっております。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)

 のがみ・ともひろ 兵庫県立神戸高校、岡山大学医学部卒。岡山赤十字病院、岡山医療センター等で外科研修、岡山大学病院助教を経て、2017年より津山中央病院勤務。日本外科学会専門医、日本乳癌学会乳腺専門医、日本乳癌学会認定医、医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月02日 更新)

タグ: がん女性津山中央病院

ページトップへ

ページトップへ