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「がん哲学カフェ」県内に広がる 悩む患者らへ前向きに生きる力を

がんについて語り合う「ひだまり」の参加者

 がん患者や家族、医療関係者らが、お茶を飲みながら病気や人生について考える「がん哲学メディカルカフェ」が岡山県内で広がっている。参加者が同じ目線で病気について語り合い、不安を和らげ、前向きに生きる力を得てもらおうと、ボランティアや医療機関による取り組みだ。2人に1人ががんになる時代に、“心の処方箋”を提供する場として専門家も普及を呼び掛けている。

 「抗がん剤治療が始まり、きつい。明日が迎えられるか自信がない」「治療は終わったけど再発が心配…」。

 日本キリスト教団蕃山町教会(岡山市)で9月に開かれた「ひだまり がん哲学メディカルカフェ」。30代~80代の男女約15人が2時間近く、テーブルを囲んで語り合った。

 病気を克服した主婦や会社員らからは「食欲がない時は野菜ジュースをゼリーにするのがお勧め」「たまには気分転換にお酒もいいわよ」と経験者ならではのアドバイスが寄せられた。

 カフェは2カ月に1回程度、ボランティアが運営し誰でも参加できる。責任者の河田直子さんも乳がんを経験。「会話の内容は深刻だけど、多くが『来て良かった』と笑顔で帰っていく。同じ境遇の人たちと気兼ねなく話をすることで、気持ちが整理できるのでしょう」と意義を語る。

隙間埋める

 こうした活動は、順天堂大(東京)の樋野興夫教授=病理・腫瘍学=が2008年に期間限定で設けた「がん哲学外来」が基になっている。

 「臨床現場は患者に病状や治療方法を説明するので手いっぱい。一方、患者はどう生きていけばいいか途方に暮れている。その隙間を埋めようと考えた」と樋野教授は説明する。

 治療や診断はせず患者や家族の話を聞き、「病気であっても病人ではない」「がんも単なる個性」などと助言するスタイルが注目され、全国の医療関係者や患者らを中心に、家族や一般も参加できるカフェ形式が全国に広がった。

 岡山県内では12年の国立ハンセン病療養所・長島愛生園(瀬戸内市)を皮切りに、13年には岡山大病院(岡山市)と金田病院(真庭市)にオープン。昨年から今年にかけ、元患者らによるカフェが「ひだまり」のほか、倉敷市、和気町に各1カ所でき、津山、総社市でも開設の動きがある。

100万人時代

 国立がん研究センター(東京)は、17年に新たにがんと診断される人を過去最高の101万4千人と予測する。「がん患者100万人時代」を本格的に迎えようとする中、樋野教授らは人口1万5千人当たり1カ所程度の哲学外来・カフェが必要と試算。全国で約7千カ所、岡山県内では100カ所以上という。

 「患者の悩みは病気だけでなく、家庭や仕事など多岐にわたる。気軽に語り合えるカフェのメリットは大きい」と話すのは岡山大大学院医歯薬学総合研究科長の那須保友教授=泌尿器科。多くのがん患者を診療し12、13年には樋野教授を招いたカフェを企画した経験から「各地のカフェを核に医療機関や行政、市民が一体となった患者支援を進めていくべきだ」と指摘する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月12日 更新)

タグ: がん岡山大学病院

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