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岡山県地域包括ケアシステム学会学術大会

田中滋氏

鈴木康裕氏

地域包括ケアシステムが目指す地域の姿と地域医療構想の関わりを話し合ったシンポジウム

 超高齢社会を迎えた地域で自立して生活するため、専門職の支援態勢を考える「岡山県地域包括ケアシステム学会」(理事長・椿原彰夫川崎医療福祉大学長)の第2回学術大会が1日、岡山市で開かれた。テーマになったのは、医療、介護のみならず福祉サービスも含めて「丸ごと」住民を支える地域づくりだった。厚労省が助成する研究会で座長を務める田中滋慶応大名誉教授と、厚労省医務技監の鈴木康裕氏の講演要旨、厚労省や岡山県の政策担当者、学識経験者らが話し合ったシンポジウムの模様を紹介する。

基調講演 慶応大名誉教授 田中滋氏 「地域包括ケアシステムの深化」

連携の中に福祉職を


 地域の課題は個別対応では解決できず、地域として丸ごと対応していかねばならない。一つの家の中に要介護の高齢者と失業した親、発達障害の子どもがいる時に、個別の方策ではなくて地域課題として捉える。地域包括ケアシステムは高齢者のためにつくってきたが、少子化対策にも役立つ。

 私たち「地域包括ケア研究会」は、2008年の最初のシステムで、高齢者の生活を支えるのは医療と介護だけではないと訴えた。「予防」「生活支援」「住まい」を加えた5要素がそろって高齢者を支える。15年バージョンのシステムでは、団塊世代の責任と福祉の専門性を位置づけた。

 昔は高齢になるまで生きるのは比較的所得の高い人だったが、現在は元気だけど孤立していたり、生活保護を受けたりしている。予防には地域、家族や友人とのつながりが重要だ。社会との関係が会社や所属組織によって結ばれていた人は、そこからつながりが切れていく度に虚弱が進んでいく。定年の前に仕事場以外の社会性を持つ準備をしておかないといけない。

 生活の機能を街にどう持たせるか。地域マネジメントでは、地域のニーズを捕捉し、住民や商店街の人、子どもたちの力を使って地域を活性化する。地域でどう楽しみながら暮らすかとなると、生活支援コーディネーターが必要だ。自治体は場を設定し、裏方として協議を支援する。

 地域が病棟であり、入所先と捉えると、地域当たりの訪問看護師、ケアスタッフ、リハビリスタッフという人数の考え方が可能になる。この地域を支えるには何人必要なのかという考え方をすればよい。

 ケアマネジャーが支援困難と判断した事例集を読んでみると、介護問題だけではない。孤立、貧困、虐待…ほとんどのケースで福祉問題が絡んでいる。医療・介護職だけで解決するのは無理。医療介護連携から多職種協働へ。その中には福祉職が入っていないといけない。


特別講演 厚生労働省医務技監 鈴木康裕氏 「地域の医療・介護連携で何を目指すのか?」

縦割りでなく丸ごと


 今までの高齢化とこれからの高齢化は全く質が違う。これまでは高齢者の実人員がものすごい勢いで増え、サービスの供給量を増やすことで対応してきた。これからは高齢者人口の伸びは緩やかになり、2040年頃に平坦(へいたん)になる。

 しかし、高齢者を支える生産年齢人口は大幅に減り、看護や介護を担う人を見つけるのがより難しくなってしまう。1990年頃は5人で高齢者1人を支えていた。今は2人で1人くらい。今世紀後半にはほぼ1人で1人を支える時代になる。

 厚労省は、人生の最期をどこで迎えたいかを定期的に意識調査している。自宅で過ごしたいと答える人は6割くらいいる。だが、実際に自宅で最期を迎えられる人は十数パーセント。自宅が困難な理由を答えてもらうと、介護してくれる家族に負担がかかることと、症状が急変した時、すぐに入院できるのかという不安が挙がる。この二つが手当てできれば、「おおむね在宅、時々入院入所」という地域ケアが可能になる。

 私が厚労省老人保健課長だった2006年頃、50万人近くが将来、最期を迎える場所がなくなってしまうと心配した。しかし、現在は解消されつつある。有料老人ホームと、新しく始まったサービス付き高齢者向け住宅を合わせると40数万人分の施設が増えた。これらの施設は介護サービスそのものを提供しなくても、見守りサービスはできる。

 地域包括ケアは医療や介護というセクターの取り組みではなく、まちづくりそのもの。都市計画も関連してくる。医療や介護は労働集約的な産業であり、雇用の面でも役割が大きい。新しいサービスやシステムを生み出し、地域を活性化するためにも、医療介護の連携が必要だ。

 われわれ行政職員が困っている人、問題を抱えている人を助けるには、地域を一緒につくっていくと考えなければならない。縦割りではなく、丸ごと支えることが求められている。


シンポ 国や岡山県担当者ら 地域医療構想との調和を

 地域包括ケアシステムでのまちづくりの視点を強調した講演を受け、シンポジウムでは、システムが目指す地域の姿と、将来必要な病床数などを推計した「地域医療構想」がどう調和していくのかが議題となった。

 岡山県保健福祉部長の荒木裕人氏を座長に、元県保健福祉部長で厚労省地域医療計画課長の佐々木健氏、産業医科大教授の松田晋哉氏、日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏、県医療推進課長の則安俊昭氏の4人が岡山県の実情も踏まえ、意見を交わした。

 「地域医療構想」は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年の医療需要や医療機能について、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の段階ごとに、必要量を都道府県単位で推計したもの。医療機関の役割分担を明確化して効率化を進め、医療費の抑制を図るとともに、在宅医療や介護との連携により、全国の大半で病床数は減る見通しとなっている。

 全都道府県が構想の策定を終え、佐々木氏は「今後は(医療関係者や行政が構想実現に向けて具体的な協議を行う)調整会議での議論が重要となる」と指摘し、「現状の仕組みを前提とした議論ではなく、将来の人口動態や各医療機関の在り方など地域の姿をしっかり考える機会にしてほしい」と呼び掛けた。

 松田氏は「構想の目的は病床削減ではない」とした上で、「岡山県内でも地域によって将来の人口動態や医療・介護ニーズは大きく異なる。地域にある資源でそのニーズにどう対応するのか、実情に応じた体制をつくるために知恵を絞らなければならない」と訴えた。地域医療の担い手不足を解消するための医学教育の充実も求めた。

 鈴木氏は「構想を実現し、地域包括ケアシステムの構築を進めるには、地域に密着した中小病院の役割が大きくなる」と強調。かかりつけ医や医師会と行政の連携も含めて「中小病院や身近な診療所を中心に地域のネットワークをつくることが大切だ」と話した。

 則安氏は、25年の必要病床数を15年時点から約4千床少ない約2万床と見込んでいる岡山県の構想を取り上げ、目指す方向性や地域包括ケアシステムの役割などをあらためて解説。県内の医療機関がインターネットを通じて患者の診療情報を共有する「晴れやかネット」など、地域連携の取り組みも紹介した。

 議論を取りまとめた荒木氏は、「地域の実情を踏まえ、医療を含めてさまざまな人たちが支え合い、ネットワークを築くことが求められる」と締めくくった。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年10月16日 更新)

タグ: 介護福祉

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