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(6)脳梗塞の症状、治療と予防 岡山旭東病院神経内科主任医長 河田幸波

河田幸波神経内科主任医長

 脳梗塞の後遺症で日常生活に特に支障をきたすのは失語症と手足の麻痺(まひ)です。失語症は言葉が理解できなくなったり、頭に思い浮かんでいる言葉が言えなくなったりする症状です。麻痺は手足を思うように動かせなくなる症状で、通常は片側にだけ生じます。

 動かないことを「痺(しび)れた」と表現する方もいますので注意が必要です。脳梗塞の急性期には「感覚が鈍く」なることはあっても、痺れが切れた時のような強い感覚は通常は生じません。ジンジンしたのか、動かなかったのかは大きな違いです。

 脳梗塞で見え方がおかしくなることもあります。急に視野の一部が見えにくくなったら、すぐに片目ずつで見てください。どちらの目で見ても同じところが暗くなっていたら脳卒中が疑われます。左右で違う場合は緑内障など眼疾患の可能性が高くなります。また、両目で一生懸命見ても新聞など近くの物が二重に見えるときは脳神経麻痺が疑われます。遠くの物だけ二重に見えるときは乱視や眼精疲労かもしれません。

 小脳梗塞では麻痺は出ませんが、運動失調が出ることがあります。すなわち、さまざまな筋肉の動きの調節がうまくいかなくなるので、物を持ち損ねたり、倒れこんだりします。運動失調の簡単な検査は指鼻(ゆびはな)試験と継(つ)ぎ足歩行(イラスト)です。普段から時々検査してみると良いと思います。

 脳梗塞を扱ったテレビ番組などの中には、過剰に不安をあおっているものもあるように思います。脳梗塞になって失神する場面が出てくることがありますが、脳底(のうてい)動脈閉塞(へいそく)という重篤な状態以外では通常、意識は保たれます。また、30分以上の座位や排尿後、入浴後に血圧が下がり、脳全体が虚血(きょけつ)になって失神することがありますが、頭を低くしたら目が覚めて、元に戻れば脳梗塞ではありません。

 脳は痛覚を持たないと言われており、脳梗塞になって脳が壊死(えし)し始めても、通常は痛くありません。心筋梗塞とは違うところです。

 急に失語症や麻痺、見え方やバランスの異常を生じたら、たとえ数十分程度で症状が消失しても、できるだけ早く脳卒中の治療ができる病院を受診することを強くお勧めします。

 治療には正しい診断が必要です。当院は夜間や休日でも放射線技師、臨床検査技師が常駐し、MRI、CT、DSA(血管造影)、血液検査が実施できます。脳梗塞と診断したら、心機能、腎機能などを早急に評価し、抗凝固薬(t―PA、アルガトロバン、ヘパリン)、抗血小板薬(オザグレルナトリウム)、脳保護薬(エダラボン)を組み合わせて治療します。t―PAは最後に元気であった時から4時間半以内に投与開始しなければなりません。当院は薬剤師も常駐しており、迅速に対応できます。

 頭頸部(とうけいぶ)の主幹動脈(直径約1・5ミリ以上の動脈)の閉塞による脳梗塞では、血行再建術も検討します。これはさまざまなカテーテルや器具を用いて血栓を回収したり、血管を拡張したりする治療です。

 最後に、脳梗塞は予防できます。心房細動という不整脈が原因の脳梗塞は専用の予防薬があります。普段から自分だけでなく、親や配偶者の脈も不整がないかどうか、みてあげてください。不整脈を感知する家庭用血圧計もあります。

 そして、糖尿病、高血圧、脂質異常症は、無症状でも確実に体を傷めていきます。薬を飲み始めたらやめられないというのは迷信です。食事を改善するだけでも、薬が要らなくなる人はたくさんいらっしゃいます。

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 岡山旭東病院(086―276―3231)。

 指鼻試験 左右交互に、できるだけ素早く行います。何回やっても鼻の先に付かなければ運動失調の可能性があります

 継ぎ足歩行 年齢とともに前後の足が少し離れたり、多少はジグザグになったりはします。普段からどれくらいできるかやっておくと良いと思います

 かわだ・さなみ 岡山大学卒。外科的処置もできる方が患者さんのためになると脳神経外科に入局。香川、岡山県内や姫路市、岩国市、新居浜市の医療機関で脳神経外科医として勤務後、2005年に岡山旭東病院神経内科へ赴任。日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会、日本脳卒中学会の専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年11月20日 更新)

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