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(1)胃がん 岡山赤十字病院消化器内科副部長 井上雅文 第三消化器外科部長 高木章司

(写真上から)【写真1】【写真2】

井上雅文消化器内科副部長

高木章司第三消化器外科部長

 がん治療は、以前は痛みや苦痛の強い治療が中心でしたが、最近ではできるだけ苦痛の少ない、体にやさしい治療が普及してきました。当院での胃がんに対する取り組みをお話しします。

 消化器内科では、早期胃がんに対する内視鏡治療と、外科手術ができない胃がんに対して全身療法を行っています。

 ■内視鏡的粘膜下層剥離術

 早期胃がんには主に内視鏡的粘膜下層剥離術を行っています。この治療は内視鏡の先端から出した内視鏡治療専用ナイフでがんの周囲を切開した後、がんを含めた胃粘膜を胃壁から剥離し、切除する方法です(イラスト)。全身麻酔は不要で、腹部を傷つけることなくがんを切除することができます。身体への負担も少ないため、術後早期に離床し、食事が可能となります。

 ただし、この内視鏡治療の対象はリンパ節転移がなく粘膜内にとどまる早期胃がんです。当院では、内視鏡検査の際に小さながんも早期発見できるよう、最新の検査機器を用いて細心の注意を払って観察しています。経口内視鏡検査が苦手な方には、苦痛の少ない経鼻内視鏡検査も行っています。

 ■薬物療法

 全身療法(薬物療法)としては従来の抗がん剤、分子標的薬、そして今年9月から使えるようになった免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ=オプジーボ)があります。患者さんの要望も踏まえ、適切に薬を組み合わせて治療します。副作用を少なくし良い体調を長期間維持できるように、また治療前と同様の生活スタイルに戻れるように、医師、看護師、薬剤師が多職種チームを組んで診療しています。

 外科治療については腹腔鏡手術を中心にお話しします。

 ■腹腔鏡(ふくくうきょう)手術について

 腹腔鏡手術は3~12ミリの傷口から、カメラや鉗子(かんし)を入れて手術をします。胃の腹腔鏡手術は手術の範囲が広く、消化管の再建も行うため高度な技術が必要とされ、必ず内視鏡外科学会技術認定医が手術メンバーに入ります。

 ■傷を最小限にとどめる

 術後の痛みを最小限に抑えるため、へそ下2~3センチの切開創以外では、できるだけ小さな傷だけで手術します。(写真1)

 ■開腹と同等の切除、郭清(かくせい)範囲

 手術は胃の一部または全部と、転移する可能性があるリンパ節を一緒に取り除きます。現在では開腹手術とほぼ同等の切除が可能ですが、当院はガイドラインに沿って早期がんと進行がんの一部に行っています。

 ■完全体腔内再建

 切除後に残された胃と腸をつなぐことを吻合(ふんごう)、再建と言います。胃と腸の吻合は完全に腹腔鏡下に行い、これにより小さな傷での手術が可能になりました。当院は7年前から行っていて、開腹手術と同等以上の安定した吻合が行えています。(写真2)

 ■胃全摘をできるだけ避ける

 早期がんでは可能な限り胃全摘は避けています。胃を全摘すると体重減少率が高く、生活の質が低下します。2009年の全国調査では、胃全摘は31%の症例で行われていましたが、当院では術式の工夫により、最近2年間の胃全摘は18%にとどまります。

 当院は消化器内科と消化器外科の専門医が連携して胃がん診療に当たっており、患者さんの病状に応じて最適最善の治療を安全に行えるよう、日々努めております。

     ◇

 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 いのうえ・まさふみ 岡山芳泉高校、高知医科大学医学部卒。香川県立中央病院、福山医療センターなどで内科研修、岡山大学病院助教を経て2012年より岡山赤十字病院勤務。日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、医学博士。

 たかぎ・しょうじ 丸亀高校、岡山大学医学部卒。呉共済病院、岡山大学病院などを経て2000年より岡山赤十字病院勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、食道学会食道科認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年11月20日 更新)

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