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患者さんと伴走するナースたち―安心・安全・あったかkawasaki nursing

入院・療養生活で患者が知っておくべきことや、暮らしの中でできる認知症の予防について看護師らが話した第12回開院記念市民公開講座=11月18日、川崎医科大学総合医療センター

高橋洋子患者診療支援センター看護副師長 

富阪幸子ICU看護主任 

大西真由美看護管理室看護師長 

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第12回開院記念市民公開講座(最終回)が11月18日、院内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院看護部から、患者診療支援センターの高橋洋子看護副師長、ICU(集中治療室)の富阪幸子看護主任、看護管理室の大西真由美看護師長の3人が登壇し、「患者さんと伴走するナースたち―安心・安全・あったかkawasaki nursing」をテーマに、入院時の心構えや認知症予防などについて話した。

入院! その前に知っておく自分自身のこと
患者診療支援センター看護副師長 高橋洋子


 もし、病気になり療養するとしたら、病院と在宅のどちらを選ばれるでしょうか?

 今まで通り住み慣れた地域で、家族に迷惑をかけずに過ごしたいと願っている方が多いのではないでしょうか。岡山市の「市民や医療・介護の専門機関に対する在宅医療に関する意識調査」(2016年度)では、「医療や介護が必要になった時どこで過ごしたいですか」との問いに、自宅と答えた方は32・3%、「終末期はどこで過ごしたいですか」との問いに、自宅と答えた方は39・8%でした。しかし、実際には自宅で亡くなる方は12・1%であり、本人の意思や希望とは異なっています。

 その背景には、「一人暮らしで相談する人がいない」、「もし何かあったらどうしていいのか分からない」、あるいは「何でも自分でできないと在宅は無理ではないか」―など、本人や家族の不安があると思われます。しかし、自宅で過ごしたいという思いを支えてくれている方々が身近にいます。訪問診療の医師や訪問看護師、ケアマネジャーなどの専門職や、時には地域住民の方々です。なによりも、自身の心身について何でも相談でき、通院が困難になった際には自宅へ訪問診療してくれる、かかりつけ医を持つことをお勧めします。

 もし入院することになった場合、かかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャーらと急性期病院の医療従事者がしっかり連携し、全力で支援します。そして再び望まれるところへ帰れるように伴走していきます。

 当院では、安心して入院し治療が受けられるように、入院前に入退院サポートセンターの看護師が患者さんやご家族と面談します。病歴や過去に診療を受けた病院名、食べ物によるアレルギーやお薬による副作用などもお知らせください。

 受診時や入院時にはお薬手帳を持参されることをお勧めします。また、入院前にできていた生活動作や薬の管理が入院中も引き続きできるように、自分でできることはできるだけ自分でしていただきます。分からないことがあればしっかり質問してください。

 患者さんもご家族も医療チームの一員です。入院中は退院支援スタッフが医師や病棟看護師、他職種と協力しながら、入院から退院後の療養生活を安心して過ごしていただけるように、専門職の立場から支援しています。今後どのような人生を歩んでいきたいのか、この講演を通して考える機会としていただければ、と思います。

ためになる、入院中の過ごし方
ICU看護主任 富阪幸子


 フローレンス・ナイチンゲールは、「病気とは回復過程であり、看護はその人自身が持つ『自然治癒力』を妨げないように援助することである」と言っています。病気を治していくのは患者さん自身の生命力であり、私たち医療従事者はそれをお手伝いしている、とも言えます。

 入院するとベッドが準備され、つい横になってしまいたくなると思いますが、安静をとる生活が長くなりすぎると、体にさまざまな問題が起きてきます。足に血栓ができたり、口の中にいるたくさんの細菌が肺へ垂れ込んでしまい、肺炎にもつながります。まだ食事ができない状態でも歯磨きは必要です。心臓や食道などの大きな手術をする前には近くの歯科医に行っていただき、歯垢(しこう)・歯石を除去してから入院していただくことが多くなってきました。体を動かさなくなると腸の運動も鈍るため、腸閉塞(へいそく)になることもあります。

 また、ICUではたくさんの医療機器に囲まれ、非日常の環境で生活します。このような環境では、抑うつ状態になったり、時間や場所が分からなくなるせん妄という状態に陥ったりすることがあります。予防のため、普段使っている眼鏡や補聴器があれば必ずお持ちください。よく耳が聞こえる、目が見えるという状態がせん妄を防ぐことにつながります。

 床ずれに対しては、当院でも細心の注意を払っています。起き上がれない方は体位変換して除圧するようにケアしながら、安静が解けたらただちに背中を床から離していくことを実践しています。1週間寝たきりだと筋力が20%低下するというデータもあるそうです。重症になればなるほど筋肉は落ちてくるので、早く筋力トレーニングを開始しなければなりません。人工呼吸器を付けていても、座る・立つ・歩くことにチームで取り組んでいます。

 私たちがいつもやっている筋力トレーニングの一つがスクワットです。座る・立つを繰り返し、太ももやふくらはぎの筋肉、姿勢を保つ筋肉に力が入ります。少し前かがみになり、お辞儀をするようにやると安全にできます。踵(かかと)上げ運動も効果的です。テレビを見ながら、話をしながらでもできます。

 「特定行為実践看護師」という、一部の医療行為を医師に代わって行える看護師が誕生しました。私も当院に2人いるうちの1人で、人工呼吸器からの離脱を助けたり、動脈から採血する手技を医師に代わってやっています。分からないことがあれば、どうぞお気軽に声をかけてください。

認知症予防 ―自分らしい生活のために―
看護管理室看護師長 大西真由美


 当院の認知症専門ケアチームには医師、社会福祉士、薬剤師、臨床心理士、看護師らがいます。認知症の方は自分のことを自分で訴えることが難しいため、私たちが話し合いをする時には、なるべく患者さんを主語にして話をするようにしています。

 厚労省による2010年の推計では、65歳以上の7人に1人は認知症、7~8人に1人は認知症予備軍のMCI(軽度認知症)です。25年には5人に1人が認知症になるという予測もあります。

 加齢に伴う通常の物忘れは体験の一部を忘れますが、認知症の物忘れは全体を忘れてしまいます。例えば、認知症の方は孫の結婚式そのものを忘れてしまいます。MCIの方は孫の結婚式を忘れることがあっても、1人で生活できています。日常生活に支障を来すかどうかで分かれます。MCIの方の半分は健常者へ、残り半分は認知症者へ移行すると言われています。予防がどれほど大切かお分かりになるでしょう。

 認知症は生活習慣病の一つであると言われるようになってきました。生活の中で予防したり、進行を遅らせたりすることができます。科学的根拠を基に、実践することが強く推奨されている「禁煙」「うつ病の予防」「運動」の三つを中心にお話しします。

 たばこを吸う人は吸わない人に比べて2倍、うつ状態の人はうつでない人に比べて2倍、散歩を趣味にしていない人は散歩を趣味にする人の2倍の認知症発症率です。今更たばこをやめても…と諦めなくて大丈夫です。喫煙年数の長さではなく、今吸っているかいないかで認知症発症率が変わってくるというデータがあります。

 睡眠はうつと強い関係があります。毎日6時間から8時間眠り、少し昼寝もしていただくとよいと思います。睡眠を取るために、昼間に日光を浴びることをお勧めします。夜になると睡眠を促すホルモンが分泌されます。脳の覚醒を促すホルモンも分泌され、これはうつ病の予防になります。

 長期的、定期的に運動することも大切です。有酸素運動のウオーキングや水泳などを息が弾むまでやるとよいでしょう。運動しながらおしゃべりをすると、認知機能のトレーニングにもなります。ウオーキングは目的地を決めて歩くのがポイント。頭の中で地図を描きながら歩くことで、運動機能と認知機能をともに鍛えることができます。

 膝が痛くて歩けない場合などは、毎日40分ほど家事を続けることで補うこともできます。自分なりの認知症予防を続けましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年12月04日 更新)

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