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- 消化器がん―体にやさしい治療―
- (2)食道がん 岡山赤十字病院消化器内科医長 安井稔博、第三消化器外科部長 高木章司
(2)食道がん 岡山赤十字病院消化器内科医長 安井稔博、第三消化器外科部長 高木章司
食道壁へのがんの深達度を示す分類により、内視鏡的粘膜下層剥離術で完治が望めるのはT1a―EP(M1)からT1a―LPM(M2)の病変です。粘膜筋板を超えないものが早期がんです。粘膜筋板に達している病変はリンパ節転移などの頻度が高くなり、手術などによる治療の対象となります
胸腔鏡手術による術後創部
高木章司第三消化器外科部長
安井稔博消化器内科医長
たばこやお酒が食道がんの発症リスクを高めることが示されており、舌がんや咽・喉頭がん、胃がんと共通するため、食道がんになった人はこれらのがんにもなりやすいです。食道がんの症状は食事が胸にしみる感じやつかえ、胸背部の痛みや体重減少、場合によっては声がれなどがありますが、初期の食道がんはほとんど症状がありません。内視鏡検診などで早期に病気を発見できれば、より体に負担の少ない治療ができます。
当院での食道がん治療についてお話します。
■内視鏡的粘膜下層剥離術
食道がんの進行度は病変の深さとリンパ節転移、遠隔転移の要素で決まります。粘膜固有層までのがんであればリンパ節転移の可能性がほとんど無く、内視鏡で切除することが可能です。この段階で治療できれば、臓器障害を残すことなく完治することも望めます。
具体的には、内視鏡を用いて粘膜下層の深さで局所の粘膜を病変部ごと剥がして切除します。体表を傷つけることなく治療可能で、回復も早いです。前回の胃がん(11月20日付)と同じ術式ですので、イラストを参照してください。
■薬物療法、放射線療法
進行して手術での治療が困難な場合には、抗がん剤による薬物療法や放射線治療、もしくはそれらを組み合わせた治療を行います。患者さんの要望やそれぞれの治療の長所、短所を考慮して治療方針を決めていきます。薬物療法と放射線療法を組み合わせた化学放射線療法は、患者さんの状態によっては手術の代替治療となる場合もあります。
■緩和ケア
病勢、症状に応じて緩和ケアチームによる介入を行い、ご希望や状態に合わせた症状緩和を行えるように心がけて治療します。
続いて外科手術について説明します。
■鏡視下手術
胸部食道がんの手術は胸部、腹部、頸部(けいぶ)の3カ所に切開創ができ、消化器がんの中では最も侵襲の大きな手術の一つで、術後回復までに時間がかかります。そのため食道がんでも傷の小さな鏡視下手術が増えてきました。
2007年頃から、手術がやりやすいうつ伏せの体位での胸腔鏡手術が始まり、全国的に胸腔鏡手術が増えてきました。当院では12年前から良性腫瘍に対して胸腔鏡手術を行っていましたが、食道がんはいろいろな施設による症例でピットフォール(落とし穴)が分かった後、開胸と同様に行えることを確認して5年前から開始しました。
胸部は5~12ミリの傷、数カ所で行っています。現在は拡大視効果などによって出血が少なく精緻な手術が可能になり、安全に手術が行えています。
■合併症を低下させる
術後の合併症が予後を決める因子の一つといわれています。頻度の高い合併症として、縫合不全といって、胃と食道をつないだ部分から漏れが起きる合併症があります。全国的に13%前後とされますが、当院は術式の工夫により、最近10年間では胃管による縫合不全は5%と低率でした。
■多職種による患者ケア
外科医だけではなく、術前化学療法は内科医が、術後の集中治療(ICU)は集中治療医が、また手術決定から退院まで、リハビリ科、歯科、薬剤部、栄養科が介入して術後の合併症低減、早期回復を目指しています。問題が起きれば全員に共有される透明性の高いシステムになっています。
当院では多職種が連携し、患者さんの病状に応じて最適最善の治療を安全に行えるように診療しております。
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岡山赤十字病院(086―222―8811)
やすい・としひろ 岡山朝日高校、自治医科大学卒。岡山赤十字病院で初期臨床研修後、成羽病院や渡辺病院などで勤務。2016年より岡山赤十字病院勤務。日本内科学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
たかぎ・しょうじ 丸亀高校、岡山大学医学部卒。呉共済病院、岡山大学病院などを経て2000年より岡山赤十字病院勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、食道学会食道科認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医。
(2017年12月04日 更新)