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(2)高血圧~家庭血圧が大事です~ 岡山西大寺病院副院長 井久保卯

井久保卯副院長

 高血圧の人は日本に4千300万人もいます。60歳以上では男女とも6割以上が高血圧です。国民病の代表ともいえる高血圧ですが、血圧には2種類あることをご存じですか? それは「診察室血圧」と「家庭血圧」です。「診察室血圧」は病院や医院で測る血圧で、健診やデイサービスなどで測る場合もこれに入ります。それに対して、わが家で家庭用の血圧計で測るのが「家庭血圧」です。この「家庭血圧」がより重要なのです。

 <…診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する…>(「高血圧治療ガイドライン2014」より抜粋)。これは最新の高血圧の治療指針(日本中のお医者さんが参考にする教科書)です。今回はこの二つの血圧について説明します。

 高血圧症の基準はこの二つで少し異なります。【表1】のように、家庭血圧の方がやや低く設定されています。そしてこの二つの基準をもとに四つのグループ=(1)正常(2)白衣高血圧(3)仮面高血圧(4)(持続性)高血圧=に分類されます(【図1】)。(2)の「白衣高血圧」は文字通り白衣を着た医師や看護師に測ってもらうと血圧が高くなる現象です。(3)の「仮面高血圧」は、普段家では血圧が高いのに、お医者さんの前では優等生のように血圧が正常―というイメージで名前がつきました。(1)はどちらも正常血圧で問題ありません。(4)はどちらも高いので正真正銘の高血圧で要注意です。

 問題は(2)白衣高血圧と(3)仮面高血圧です。この二つは性質の悪い高血圧でしょうか? この疑問に対して明確な答えがあります。一般に高血圧症には、高血圧から動脈硬化に進み、脳卒中・心筋梗塞などを発症する―という悪い流れがあります。【図2】のデータを見てください。二つの血圧がどちらも正常な(1)のグループの脳卒中・心筋梗塞の危険度を1とした時の(2)(3)(4)のグループの危険度を比較したものです。(2)は(1)とほぼ同じ、(3)は(4)とほぼ同じです。言い換えれば、白衣高血圧の人はそれほど心配しなくてもいいのですが、仮面高血圧の人は気をつけましょう、ということです。

 ここでもう一度【図1】を見てください。グループ(3)(4)の危険度が高いということは、すなわち家庭血圧が高い人は要注意ということです。これが「家庭血圧の方が診察室血圧より重要である」ことの理由です。

 このように大事な家庭血圧ですから、正しく測定する必要があります。測定法を【表2】にまとめました。一番大事なのは、安静にしてリラックスした状態で測定することです。家庭血圧が高めな人は特に注意してください。

 家庭血圧を測定することにはさまざまなメリットがあります(【表3】)。血圧の高い人はもちろん、血圧に問題のない人でも(4)のような利点があります。

 血圧は体重や体温と同様に健康状態の大事なバロメーターです。日本には現在、家庭用の血圧計が約4千万台あると言われています。家族みんなで有効に利用しましょう。高血圧など生活習慣病については、「自分の健康は自分が守る」という気持ちが大切です。家庭血圧を測ることで、ご自身の高血圧治療に参加されることをお勧めします。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 いくぼ・しげき 岡山朝日高校、岡山大学医学部卒。2015年4月から現職。日本内科学会認定医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、岡山大学医学部医学科臨床教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年12月04日 更新)

タグ: 心臓・血管

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