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県内男性看護師10年で2.5倍 養成段階の実習先確保に課題

岡山市内の看護学校で学ぶ学生たち

旭川荘厚生専門学院の図書館で同級生と勉強する森田さん(右)と藤原さん

 看護現場で活躍する男性が増えている。岡山県内の男性看護師は、ここ10年で2・5倍になった。団塊世代の全員が後期高齢者(75歳以上)となり医療・介護ニーズが高まる「2025年問題」を前にさらに増員が期待されるが、看護学校での養成段階で課題が横たわる。実習先の確保だ。女性患者の承諾を得られにくいとの理由から、男子学生の受け入れに二の足を踏む病院は少なくなく、学校側は頭を悩ませている。

 県医療推進課によると、県内の看護師は2万2563人(2016年)。男性は06年の492人から、16年は1230人となった。

 増加の要因として県看護協会などは、男性看護師の担当業務が拡大したことを挙げる。以前は多くの医療機関で手術室や精神科などに限っていたが、今は産婦人科などを除き、ほぼ全ての診療科に広がってきているという。

 例えば岡山大病院(岡山市)の場合、約千人の看護師のうち、男性は約80人。集中治療部、手術部、入院棟、外来など幅広い分野に配属されている。

 活躍の場が増え、「女性の仕事」というイメージが払拭(ふっしょく)されつつあり、社会的ニーズの高さにやりがいを感じ、景気に左右されにくい安定感からも志望する男性が増えているとみられる。

 ■ 女性患者「抵抗ある」

 県内の看護師養成学校は大学、専門学校など28校で、16年度入学者(計1677人)の中で男性は183人だった。さらに新設を計画している学校があるものの、岡山市内の専門学校の入試担当者は悩みを打ち明ける。

 「男子学生が増えても、新しい実習先が開拓できない。現状では男子の受け入れを拡大するのは難しい」

 看護師志望者は一般的に専門学校や大学・短大で学び、病院実習を受ける。日本医師会の調査などでは特に産婦人科、小児科で男子学生の実習に対し、患者や家族の協力が得られにくく、受け入れに消極的な病院があるのが実情という。

 岡山市の会社員女性(31)は出産のため同市の病院に入院した際、男子学生を含めた実習の可否を問われたが、断った。「産前産後は気持ちに余裕がなく、男性に体を触られたり見られたりすることに抵抗感があった」と振り返る。

 こうした状況に、県内の看護学校に通う男子学生からは「医療を施し、回復を手助けするのが仕事。患者に男女はなく、戸惑いもない」「実習では患者に性別の違いを感じなかった」といった声が上がる。

 結婚や育児での離職が少ない男性は、看護現場の深刻な人手不足をカバーする大きな戦力になっていくと注目される。県看護協会の平井康子常務理事は「在宅医療や訪問看護などのニーズが高まる中、病院外でも看護師の役割は増している。病院と患者は『一人前の医療人を育てる』との意識を持ち、実習を望む異性を受け入れてほしい」と呼び掛ける。

 2025年問題 厚生労働省によると国内で働く看護職(保健師、助産師、准看護師を含む)は約156万人(2016年現在)。75歳以上が人口の18%を占めるとされる25年には、約200万人が必要と見込まれる。厚労省は年間に看護職約3万人が増加している現在のペースが続いても、25年には需要に対して約3万~13万人の不足が生じると試算している。

 ◇     ◇

看護師を目指す男子学生に聞く

 人手不足が深刻な医療・福祉の現場を支える力として期待される男性看護師。その道を志し、旭川荘厚生専門学院(岡山市北区祇園)で学ぶ2年生2人に思いを聞いた。

 森田篤史さん(34)は言語聴覚士として医療施設に勤めていたが、看護師を目指し同学院に入学。「病気やけがからの回復を支えるのに不可欠な処置をし、身の回りのお世話もする。患者にとって身近で心強い存在で、一緒に働いていて刺激を受けた」と言う。

 藤原悠暉さん(20)は医療系の職に就きたいと進路を悩んでいた高校時代、先生から薦められた。「考えてもいなかったが『男性でもできるんだ』と気付き、興味を持った」と振り返る。

 同学院では40人のクラスに男子は5人。入学当初は女子に圧倒されることもあったが、今では同じ目標に向かう“戦友”の気持ちで一緒に勉強会もする。

 看護の仕事を目指す中で2人は「女性患者の状態について、イメージしにくい部分もあるかもしれない。しっかり寄り添えられるだろうか」「注射や点滴、採血といった医療行為なら性別はあまり関係ないだろうが、入浴や排せつなど生活介助はどうか」と考える時もある。一方で男女それぞれが協力、役割分担することでよりよい医療サービスが提供できると思っている。

 今年の夏には9日間の病院実習を体験。患者に「ありがとう」「明日も待ってるよ」と言葉を掛けられ、看護師への思いがさらに強まったという2人は、来年2月から約10カ月間の実習に臨む。

 循環器系の科を志望している森田さんの理想は「つらさを分け合い、うれしいときは一緒に喜ぶような患者とともに歩む看護師」。高度な知識と技術を持つ手術分野の認定看護師を目指す藤原さんは「病気やけがに苦しむ人の不安を和らげ、周りから信頼される医療者になりたい」と夢を語る。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年12月14日 更新)

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