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治療と仕事両立 就寝中に人工透析 重井医研付属病院が県内初導入

くつろいだ様子でベッドに横たわる男性。オーバーナイト透析を受けるため、仕事を終えた夜に来院した=重井医学研究所付属病院

 腎不全患者の生活の質(QOL)の向上につながる人工透析が、重井医学研究所付属病院(岡山市南区山田)で行われている。夜間の就寝時間を利用する「オーバーナイト透析」だ。日中の活動に時間的な制限がなくなり、働いている患者にとっては仕事への影響を軽減できる。病気の治療と仕事の両立も促す国の「働き方改革」にも沿った治療法は、同病院によると岡山県内で初という。

 午後9時すぎ。静まり返った外来病棟の3階では、公務員男性(57)=倉敷市=の治療が始まっていた。ベッドの上でリラックスした様子でテレビを鑑賞し、しばらくして眠りについた。

 翌早朝に治療を終えた男性は12年前から人工透析を受けている。以前は週3回、午後6時から通っていたため、残業や出張が難しかったが「オーバーナイトのおかげで職場に気兼ねすることがなくなった」。治療前には自宅に一度戻って妻の手料理も食べられ、ストレスが大幅に軽減されたという。

 人工透析は腎臓病患者の血液を装置に通し、老廃物の除去や水分調整をして体に戻す治療。通常、1回に要する時間は4~5時間で、週3回受けなければ命をつなぐことができないとされる。

 同病院はもともと腎臓病を専門とし、県内では最大規模の透析施設を整えている。以前は日中と夕方から治療に当たっていたが2015年3月から試験的にオーバーナイトに乗り出した。現在は6人が利用している。

 オーバーナイトは午後9~10時の間に来院し、就寝中に約8時間透析する。患者にとって日中の時間が大幅に確保できるメリットは大きく、仕事で早退する必要がなくなった▽子どもの習い事の送迎ができる▽家族で夕食を囲むなど団らんの時間が持てる―といった声が上がっている。

 透析時間を通常よりも長く取れるのもポイント。多くの老廃物が除去できるため、食事制限が緩やかになり、血圧を下げる降圧剤や貧血改善の造血剤などの使用も減るなど、体への負担軽減にもつながっているという。

 注意点もある。患者が眠れるように照明を落としているため異変を察知しにくく、寝返りした際に腕から透析針が外れることも考えられる。同病院は看護師らが小まめに巡回し、針が抜けて血がにじむと反応する装置も使っているが、担当者は「長時間、気配り、目配りが必要」と話す。

 日本透析医学会などによると、国内の人工透析患者は年々増える傾向にあり、16年末時点では前年比約4600人増の約33万人(岡山県内約5千人)。65歳以上の高齢者が多いが、働き盛りの30~40代も少なくないという。

 同病院は「治療のために責任ある仕事ができないのは心理的な負担になる。病気を抱えていても社会でのポジションを確立できるよう支援していきたい」とし、患者の受け入れ拡大に向けて体制を整えていく方針だ。

 重井医学研究所付属病院のオーバーナイト透析 スタッフが限られる夜間に行うため、安全性を考慮して心疾患や脳血管疾患、糖尿病の合併症などがなく、治療中の状態が安定している患者が対象。通常の透析との併用や臨時のオーバーナイト透析は受け付けていない。かかりつけ医の紹介状があり、同病院で面談や診察などを経て利用できるかが決まる。問い合わせは同病院(086―282―5311)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年01月15日 更新)

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