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(3)骨粗鬆症と胸やけ 岡山西大寺病院副院長・リハビリテーション科部長 原田良昭

【図1】背骨が「く」の字に変形し、おなかがみぞおちのところでくい込んでいる

【図2】円背により蛇行する大動脈の模型(右)。左は正常な状態

【図3】背骨の中に空洞ができている

【図4】体の屈伸によって背骨の前壁が開閉する「アリゲーターサイン」の状態

【図5】空洞に骨セメントを注入して補強した治療後

原田良昭副院長・リハビリテーション科部長

 骨粗鬆(こつそしょう)症は骨がスカスカになる病気です。胸やけは胃腸の病気。この二つは何の関係もなさそうですが、実は、深~い関係があるのです。

 その仕組みを説明すると、次のようになります。

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 骨粗鬆症→骨が折れやすくなる→背骨の骨折を繰り返す→背中が丸くなる→おなかが圧迫される→胃のなかみが食道に押し出される→胸やけ
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 背骨は四角形のお菓子箱が積み重なったような構造をしています。骨粗鬆症で背骨の骨折を起こすと、前側の壁がつぶれて、少し前かがみの状態になります。骨折の数が増えるほど、背中が丸くなります。(「円背」といいます=図1

 香川県立中央病院の本田透先生の研究では、円背になると、大動脈はおなかの中で圧迫されて蛇行するそうです。胃も同様に圧迫されます。(図2

 以前は、骨粗鬆症はトシのせいで仕方がないと思われていました。しかし、現在ではちゃんとした病気とされており、学会の定めたガイドライン、診断基準、薬物治療開始基準が公表されています。

 思い当たる方は骨密度の検査を受けてください。検査では骨の中のカルシウムの量を測ります。DEXA(デキサ)法と呼ばれる検査方法が一番確実です。やり方は普通のレントゲン写真を撮る検査と変わりません。10分くらいで終わります。DEXAの結果が基準値と比較して70%以下の場合は骨粗鬆症と診断され、薬物療法の適応となります。かかりつけの先生に相談してみましょう。

 また、もし1度骨折したら、絶対に2回目の骨折を起こさないように、キチンと骨粗鬆症の治療を行いましょう。

 骨粗鬆症が高度の場合には、背骨を骨折したときに十分に骨癒合が完成できず、背骨の一部に空洞ができることがあります。(図3

 こうなると、体の前後の動きによって、その空洞が開いたり閉じたりするようになります。ワニの口の動きに似ているので、アリゲーターサインといいます。(図4

 アリゲーターサインの状態になると、背中が痛いだけでなく、前かがみになるとおなかを圧迫して胸やけが出現します。背骨の骨折後、このような状態になって生活に困るときは、脊椎専門医に相談してみましょう。

 背骨の中にできた空洞に医療用の骨セメント剤を注入して補強する方法があります。骨セメント剤の注入には専用の注射針を用います。手術のように背中を切開することはありません。治療の翌日から歩行訓練を行います。

 背中を伸ばして、一番いい姿勢の状態で背骨を補強します。アリゲーターサインのような動きがなくなり、痛みがとれるばかりでなく、背中が真っすぐになり胸やけがなくなります。(図5

 患者さんは背中の痛みや胸やけ、嘔吐(おうと)に苦しんでいましたが、この治療を受けてからは痛みがとれ、同時に胸やけ・嘔吐がなくなり、安心して食事がとれるようになりました。

 歩くときには、無理のない範囲で背中を伸ばして歩きましょう。シルバーカー(手押し車)を使うと、背中の負担が軽くなります。かっこうが悪いからといって歩かないのはよくありません。できる範囲で屋外に出て散歩をしましょう。適度の運動と日光浴は骨粗鬆症の有効な治療です。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 はらだ・よしあき 岡山県立天城高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、岡山労災病院などを経て2016年4月より現職。医学博士。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本医師会認定産業医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年01月15日 更新)

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