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診療情報共有し地域連携 「晴れやかネット」運用5年

「晴れやかネット」を操作し、患者の病歴や検査データを確認する佐々木救急科医長=倉敷中央病院

 岡山県内の医療機関がインターネットを介して患者の診療情報を共有する専用システム「晴れやかネット」が、2013年の運用開始から5年を迎えた。参加施設数は400を超え、情報共有システムの中で全国トップクラスの規模になっている。医療現場でどのように活用されているのか、ネットを基軸に地域連携を進めている倉敷中央病院(倉敷市美和)を訪ねた。

 「適切な診断を下すには、患者さんの“背景”を知ることが重要。搬送時点の症状だけでは分からないことも多い」

 晴れやかネットを閲覧する狙いをこう説明するのは、佐々木暁・救急科医長。倉敷中央病院の場合、同病院の受診歴がない患者が救急搬送されてくるケースは少なくない。容体が落ち着いた段階で、患者が他施設を受診した際のカルテや検査結果、診断画像などを確認している。どんな基礎疾患を抱えているのか、処方された薬や救急搬送前の病態の変化を知り、次の段階の治療に役立てている。

 ネットを利用しない場合、以前の受診施設に電話で問い合わせているが、「病歴が長い、合併症があるなど、背景が複雑な患者さんでは、正確に情報を把握するのが難しい」と佐々木医長は言う。救急受け入れ後に撮影した画像を搬送前のものと比較するなど、ネットの情報を生かし、経緯を踏まえた治療につなげている。

 基幹病院で救急処置や手術を受けた患者の多くは、状態が安定すれば、身近なかかりつけ医で引き続き診察や治療を受けることになる。かかりつけ医がネットで情報を閲覧するためには、患者から個別に同意を得なければならないが、手続きの負担感などから、ネット利用自体を敬遠するかかりつけ医もいるという。

 そのため、倉敷中央病院は循環器内科や整形外科を中心に、転院前から患者同意を取り付けておき、かかりつけ医の負担を減らすよう工夫している。現場でのネットの認知度も徐々に高まり、初診の患者を対象に毎月集計している同意取得率は、最近半年間では8割前後まで高まっている。

 同病院は自施設を受診した患者の情報開示にも積極的だ。かかりつけ医らに開示した件数は、15年度779件、16年度1060件、17年度は1月末現在で2586件と増え続け、地域連携が深まっている。

 ネットが目指すのは、医療機関同士がつながり、あたかも岡山県全体で一つの病院を形成しているかのように患者を支える―という姿。情報の新規開示作業が平日昼間にしかできないなど課題はあるが、ネットの運営委員も務める藤川敏行・同病院情報システム部長は「さらなる活用のため、患者さんの登録増が欠かせない。一般の方にも理解していただき、より利用しやすいシステムになるよう改善していきたい」と話す。

事前同意の患者に限定 薬や検査の重複回避も

 晴れやかネットは2013年1月、岡山県全域を対象に運用を開始した。県、県医師会、県病院協会が設立した一般社団法人「医療ネットワーク岡山協議会」(事務局・岡山市北区駅元町)が管理している。

 医療機関がそれぞれ患者の情報を共有し、県内で受診施設が変わっても、切れ目のない医療サービスを受けられるようにする。共有する情報は、医師や看護師が記録した電子カルテ、超音波や放射線による画像診断データや血液検査値などで、いずれも事前に同意書を提出した患者のものに限られる。患者にとって、服用薬や検査の重複が避けられるのもメリットだ。

 スタート時は、開示するのは岡山大学病院と倉敷中央病院の2病院、閲覧側も2病院と連携する10施設だけだったが、今年2月15日現在、開示側は51施設、閲覧側は病院、診療所、薬局、介護老人保健施設など443施設に拡大した。情報提供に同意した患者は2万263人(1月末現在)に達している。

 在宅医療・介護でも情報共有を進めるため、14年3月から、拡張機能として「ケアキャビネット」の運用も始まった。在宅療養する患者の日々の状態などを記録し、医療・介護従事者が閲覧している。

 晴れやかネットの問い合わせは同協議会(086―259―2077)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年03月05日 更新)

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