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抗がん剤「オプジーボ」治験開始 岡山労災病院の藤本医師ら

藤本伸一医師

 岡山労災病院(岡山市)腫瘍内科部長の藤本伸一医師(49)らは、アスベスト(石綿)が主な原因のがん・胸膜中皮腫が進行した患者を対象に、抗がん剤「オプジーボ」を使う臨床試験(治験)を始めた。初期の抗がん剤治療から用いる新たな試み。効果が確認されれば、治療が難しい上に今後増加が見込まれる胸膜中皮腫の患者にとって朗報となる。

 中皮腫の大半を占める胸膜中皮腫は、診断後の生存期間の中央値が7・9カ月にとどまる。進行して手術ができない患者に対しては、2種類の抗がん剤の併用が標準治療で、2007年に公的医療保険が適用されたが、副作用が強く6回程度の投与が限度とされる。

 オプジーボを製造する小野薬品工業(大阪市)によると、2種類の抗がん剤治療を経た胸膜中皮腫の患者にオプジーボを投与する治験は国内で既に行われている。岡山労災病院は国内有数の中皮腫の研究・診療拠点となっており、藤本医師は一次治療に適用できないか着目。厚生労働省の補助事業として治験の実施が決まった。

 計画では、手術が難しい状態に進行しながらも未治療の患者に、従来の2種類の抗がん剤とオプジーボの計3種類をセットにして3週間ずつ空けながら4~6回投与。その後オプジーボのみに切り替え、肺炎など懸念される副作用の問題がなければ続ける。1月下旬と今月初め、岡山県内の男性1人ずつに始めており、岡山大病院(岡山市)四国がんセンター(松山市)山口宇部医療センター(山口県宇部市)の3病院とも連携し、本年度中に計18人に行う予定。

 藤本医師は「胸膜中皮腫は長い間効果的な薬が見つかっていない。一人でも多くの患者を救えるようオプジーボの保険適用を目指す」とし、治験希望者の申し出を受け付けている。

 厚労省によると、中皮腫による死者は15年に1504人で、20年間で3倍に増加。石綿は1970~80年代に大量に使われたことや中皮腫の潜伏期間(30~40年)を踏まえ、25年ごろが発症のピークとみられている。

 オプジーボ 「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれるタイプのがん治療薬。ヒトの体にはがん細胞などを排除する免疫の機能がある一方、がん細胞への攻撃にブレーキをかける分子もある。こうした分子の活動を阻害することで免疫の力を回復させ、がん治療に活用する。現在、皮膚がん、肺がん、腎細胞がんなどで保険が使える。2014年9月の発売当初は患者1人への投与で年間約3500万円かかることが批判された。その後、段階的に値下げされている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年05月14日 更新)

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