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(4)進んでいる関節リウマチの薬物療法(上) 倉敷成人病センター副院長・リウマチ膠原病センター長 吉永泰彦

吉永泰彦副院長

 リウマチは関節の「火事」です。CRP、赤沈という血液検査値は「火事の勢い」を表します。骨破壊は発症2年以内の早期に急速に進行することが分かり、早期から強力な薬を使ってリウマチの火事を完全に消そうという考え方が主流となりました。「初期消火」が重要なのです。

 リウマチの治療薬には2種類あります。抗炎症薬と抗リウマチ薬です。抗炎症薬はリウマチの火事を鎮め、関節の腫れや痛みをとる薬で、非ステロイド(いわゆる痛み止め)とステロイドがあります。

 リウマチを火事に例えれば、抗炎症薬は「水」です。早期であれば水でも消火することが可能ですが、燃え上がった火事には、「消火剤」が必要で、これが抗リウマチ薬です。「大火事」になると消防署に通報し、消火のプロに「化学消火剤」で消火してもらわなければなりません。これが生物学的製剤を含む分子標的薬です。この15年間で大きく進歩しています。

 ■従来型抗リウマチ薬

 注射金剤以外は全て経口薬です。(1)効果発現に1~2カ月かかる(2)効果は持続するが、やがて弱まる(3)薬の効く人と効かない人がいる(4)時に重大な副作用がある―という共通の特徴があります。免疫調節薬と免疫抑制薬に分類され、免疫抑制薬は感染症や貧血、白血球・血小板減少のリスクがあり、移植医療でも使用される薬剤は高価です。

 メトトレキサートがリウマチの薬物療法の中心となる薬です。2014年に日本リウマチ学会が作成した診療ガイドラインでも、リウマチと診断がつけば、禁忌でない限り、できるだけ早くメトトレキサートの服薬を開始するよう勧められています。メトトレキサートの禁忌とは、(1)妊娠・授乳中(2)本剤過敏症(3)重症感染症(4)重大な血液・リンパ系障害(5)B型・C型肝炎の活動期(6)高度な腎障害(7)胸腹水(8)高度な呼吸器障害―です。

 副作用軽減の目的で葉酸が併用されますが、間質性肺炎は葉酸でも予防できません。発熱や咳(せき)が続く場合は休薬し、早めに外来を受診してください。高齢者では脱水など腎障害が増悪し、副作用が生じやすいため要注意です。認知症患者では連日服用しないよう、服薬管理が必要です。

 ■生物学的抗リウマチ薬(生物学的製剤)

 生物から産生される物質を利用した薬剤で、自然界にある抗体や受容体などのタンパク質であり、化学的に合成した薬剤ではありません。「バイオ医薬品」とも呼ばれ、(1)肝臓や腎臓で代謝されないため、これらの臓器に負担が少ない(2)標的分子のみと結合し、その活性を抑制する(3)サイトカイン阻害薬はTNFやIL―6など炎症性サイトカインをブロックする(4)生産コストが高く、薬価が高い―など共通の特徴があります。

 長所として、(1)効果発現が早い(2)有効率が高い(3)骨破壊の抑制効果―が挙げられます。メトトレキサートが使えない患者のうち、妊婦や高度な腎障害を有する患者にも、慎重に使用することにより投与可能な製剤もあります。

 われわれも参加している全国多施設共同研究のデータをグラフで紹介します。2003~04年と15~16年度を比べると、メトトレキサート使用率は38%から63%に、生物学的製剤使用率は1%から27%に大きく伸び、これに伴ってリウマチの活動性は「中等度の火事」から「ボヤ」にまで改善しています。

 問題点として、(1)効果の減弱(2)反復投与が必要(3)製剤が高価(4)易感染、特に結核の再燃(5)悪性腫瘍や自己免疫疾患の誘発などがあり、長期の安全性が確立されていない―などが挙げられます。

 次回は最新の分子標的型抗リウマチ薬などについてお話しします。

     ◇

 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 よしなが・やすひこ 山口県立宇部高校、岡山大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。医学博士。岡山赤十字病院、尾道市立市民病院、岡山大学病院、南岡山医療センターなどを経て倉敷成人病センター勤務。2004年からリウマチ膠原病センター長、13年から副院長。岡山大学医学部医学科臨床教授。日本リウマチ学会、日本臨床リウマチ学会、日本内科学会中国地区評議員、指導医。日本腎臓学会指導医、日本透析学会専門医。日本脊椎関節炎学会理事。日本リウマチ友の会理事。ふれ愛の会顧問。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年05月21日 更新)

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