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(6)全身性エリテマトーデスの新治療薬 倉敷成人病センター・リウマチ膠原病センター主任部長 西山進

西山進主任部長

 全身性エリテマトーデスは自己免疫が関係した病気で、皮膚、関節、肺、腎臓、神経など全身の臓器に障害が出ることがあります。これまではステロイドや免疫抑制剤など治療薬が限られていましたが、最近になって新しく分子標的薬の「ベンリスタ」が登場し、2017年から日本でも使用可能となりました。また、海外で標準的な治療薬として使用されていた「プラケニル」も15年から国内で使えるようになっており、治療薬の選択肢が広がっています。

 ■ベンリスタ(一般名・ベリムマブ)

 全身性エリテマトーデスの患者さんの体では、病気の勢いが強くなると、自己抗体(抗DNA抗体など)がたくさん作られます。この自己抗体が自分自身の臓器に反応して障害を引き起こすことがあります。自己抗体は主にBリンパ球が活性化した形質細胞が作っています。

 分子標的薬のベンリスタは、Bリンパ球を活性化させる分子(Blys=B lymphocyte stimulator)に対する抗体です。従来の治療を行っても病気の活動性が高い患者さんへの投与が考慮されます。点滴と皮下注射の製剤があり、点滴の場合は最初の投与のあと3回目までは2週に1度、それ以降は4週に1度投与します。皮下注射の場合は毎週投与します。

 日本を含む国際共同試験の結果、ベンリスタを投与された全身性エリテマトーデスの患者さんは、プラセボ(偽薬)を投与された患者さんに比べて、自己抗体が減少して病気の活動性が低くなりました。さらに、病気が再燃しにくくなり、ステロイドの量を減らせる可能性が示されました。

 全身性エリテマトーデスの患者さんは、ステロイドや免疫抑制剤を併用されていることが多いため、感染症に注意する必要があります。しかし、ベンリスタを投与された患者さんが感染症などの副作用を発現した割合はプラセボと同等であり、ベンリスタを使うことによって、ことさら副作用が増加することはありませんでした。

 ■プラケニル(一般名・ヒドロキシクロロキン)

 海外では、標準的な治療薬として以前から使用されていましたが、日本では過去にクロロキンによる網膜症のために失明した健康被害が問題となって、長らく使えませんでした。15年からプラケニルとして使えるようになりましたが、網膜症を早期発見するために、使用前と使用開始後、定期的に眼科で検査を受けることが大切です。

 この薬は関節痛や皮膚症状を持つ症例に有効とされます。脂肪組織への分布が低いため、投与量は脂肪組織を除いた標準体重にもとづいて決めます。他に下痢や皮疹などの副作用がみられることがあります。

 これら二つの薬以外にも新薬の開発が進行中です。医師にとっても、患者さんにとっても、治療の選択肢が広がるのは喜ばしいことです。ただし、予期せぬ副作用が起こらないように、薬を使用する前に医師や薬剤師などとよく相談して、十分に理解されることが大切です。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 にしやま・すすむ 大阪教育大学教育学部附属高校天王寺校舎、大阪大学医学部卒、香川医科大学大学院修了。倉敷成人病センターでリウマチ膠原病センターの医長、部長を経て、2013年から主任部長。日本リウマチ学会専門医、指導医、評議員。日本シェーグレン症候群学会理事、日本臨床リウマチ学会評議員など。厚労省の難治性疾患政策研究事業「自己免疫疾患に関する調査研究班」の研究協力者なども務める。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年06月18日 更新)

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