文字 

免疫チェックポイント阻害剤 誰にどう使う? 予測つかない副作用警戒

患者の情報を共有し、治療方針などについて話し合う瀧川副院長(左から2人目)と看護師、薬剤師らの「総合がん診療センター」チーム=川崎医科大学総合医療センター

 肺がんへの高い治療効果が期待される「免疫チェックポイント阻害剤(ICI)」は、どんな状態の患者に、どのように使えばいいのか―。

 「すべての患者さんに投与できるわけではありません。全員に効果があるわけでもありません」

 手術できない「IV期」まで進行した肺がん患者を中心に、30年にわたって薬物療法を手掛けてきた川崎医科大学総合医療センターの瀧川奈義夫副院長は冷静だ。ICIの高い治療効果に期待はするものの、状態によって的確に判断することが必要だという。

 薬物療法には、がん細胞自体を破壊しようとする「抗がん剤」、がん細胞に特異的な遺伝子や増殖するために必要なタンパク質に狙いを定めた「分子標的薬」、そして、もともと体に備わっている免疫の働きを取り戻そうとするICIがある。瀧川副院長は「患者さんにとって、どれが最適なのか見極めなければいけません」と強調する。

 現在、一般治療で肺がんに使えるICIは「オプジーボ(一般名ニボルマブ)と「キイトルーダ(同ペムブロリズマブ)」が中心。保険が適応されるのは、2剤とも肺がんのうち8割以上を占める「非小細胞肺がん」で、増殖が速く転移しやすい「小細胞肺がん」は認められていない。

 違うのは、オプジーボはすでに他の薬物治療を受けたことがあり、効かなかったり、再び悪化してきた患者を対象とするのに対し、キイトルーダは条件付きながら最初の治療から使えること。免疫をブロックする「PD―L1」という物質が大量にみられることが要件となる。

 キイトルーダはオプジーボに比べて点滴投与の間隔を長くできるため、2剤ともに適応となる患者では、通院の負担の軽いキイトルーダを選ぶなど、QOL(生活の質)を優先することも考えられる。

 一般的に、抗がん剤はがん細胞に対する効果と同時に、正常な細胞も傷つけてしまう強い副作用が問題となる。特定の遺伝子変異がある人に効果的な分子標的薬も、一部で重篤な副作用が起こり得ることが分かってきた。

 ICIは今のところ、副作用は少ないとされているが、免疫に関与する薬だけに、間質性肺炎や甲状腺の機能異常、糖尿病など全身に異常が出る可能性がある。まだ一般に使われ始めて日が浅く、瀧川副院長も「私たちにも予測のつかない副作用が起こるかもしれない」と警戒する。

 そのため、同センターでは、外来通院でICI治療を始める前に、患者に1泊または2泊入院してICIについての“教育”を受けるよう勧めている。瀧川副院長らが治療方針を説明するとともに、チームを組む看護師や薬剤師らも患者を訪ね、どんな副作用が起こり得るか、起こった場合にはどう対処するか―など、ICIに特有の事象を理解してもらっている。

 ICIの治療チームが属する「総合がん診療センター」は、瀧川副院長をトップに診療科や職種を超えたスタッフがそろう。看護師はそれぞれ、がん化学療法看護、がん性疼痛看護、緩和ケアなどの専門領域を学んで資格を取り、がん患者のQOLに配慮できる「がん看護専門看護師」もいる。薬剤師も「がん薬物療法」などの専門を身につけている。

 スタッフは毎週カンファレンスを開き、一人一人の患者の状態や情報を共有している。瀧川副院長は「副作用が起きても迅速に対応できるよう、チーム内の連携を強化していきたい」と話す。

川崎医大総合医療センター専門職チーム 看護師、薬剤師らで緩和ケアも

 川崎医科大学総合医療センターのICI治療で、医師とともにチームを支えるのが、看護師や薬剤師といった専門職だ。新しい治療に挑戦する患者には強いストレスがかかる。彼らは薬の副作用やがんに伴う痛みの管理をサポートするだけでなく、治療に立ち向かう意欲を保ち続けられるよう、患者の精神面にも細やかに気を配っている。

 スタッフの多くは「緩和ケア」を学んでいる。従来、緩和ケアは治療法がなくなった終末期の患者が受けるものと捉えられがちだったが、現在は違う。緩和ケアはがんと診断を受けた時点から、治療と並行して始まり、痛みをコントロールしながら自宅で暮らせるように患者を支援する。

 緩和ケア認定看護師の資格を持つ看護副師長の六原純子さんは「患者さんやご家族から、医師には言いにくい治療に関する不安や悩みを打ち明けられることは少なくない」と話す。必要に応じて医師らに情報を伝え、患者との“橋渡し役”を担っている。

 ICIは薬が効く仕組みや副作用について、まだ解明の途上にある。他の病気の治療で併用している薬は大丈夫かなど、薬剤師の専門性が求められる場面も多い。患者は入院時だけでなく外来治療の際、薬剤師とも面談する。外来がん治療認定薬剤師の渡辺麻里子さんは「副作用の予防や発症時の対応を患者さん本人に理解してもらうことが重要」と強調し、できるだけ具体的に説明することを心掛けている。

 草信晴美さんはがん薬物療法、外来がん治療に加えて緩和薬物療法の資格も持つ薬剤師だ。「呼吸が苦しい、体が痛いなど、がん患者さんに特有の痛みがある。薬で痛みを取り除いてQOLを維持し、積極的に治療を頑張ろうという気持ちになってほしい」と患者に寄り添っている。

 ■川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下、086―225―2111) がんの初診患者やがんの疑いがある患者のために、腫瘍内科医による「がん初診外来」を設けている。受付時間は月~金曜の午前8時半~11時半。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年06月18日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ