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第3回ロコモ 高齢者が聞いてためになるお話 健康寿命を延ばすために

長谷川徹教授

射場英明講師

内野和也助教

杉優子主任理学療法士

両手を組んで前に突き出し、腕を左右にねじる

両手を組んで上げ、体を左右へ倒す

片脚を反対側の太ももに乗せる。腰を伸ば した後、体を丸めて前に倒す

右手を左膝の内側に当て、おなかに力を入れて押し合う。反対も行う

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する第3回川崎学園市民公開講座が6月16日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「ロコモ 高齢者が聞いてためになるお話―健康寿命を延ばすために―」。専門医がロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防法や関連疾患の治療法を解説したほか、理学療法士による健康体操の実演が行われた。

高齢者とロコモのお話

川崎医科大学脊椎・災害整形外科学教授
川崎医科大学附属病院副院長 整形外科部長 長谷川徹


 2016年時点での平均寿命は男性80・98歳、女性87・14歳といずれも過去最長を更新しました。平均寿命は男女ともに今後も延びる見通しで、2065年には人口の25・5%、実に約4人に1人が75歳以上の高齢者になると推計されています。

 ここで「健康寿命」に着目してみましょう。健康寿命とは、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のことで、男性72・14歳、女性74・79歳です。先ほどの平均寿命と比べると、男性で約9年、女性でなんと約12年の差があります。つまり、人生の後半においてこれだけの年数、身体機能が著しく低下したり、寝たきりになったりしているということです。いかに健康寿命を延ばし、自立した老後を迎えるかが重要になっています。

 筋肉や骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれかに障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態を「ロコモティブシンドローム」(ロコモ、運動器症候群)といいます。

 (1)片脚立ちで靴下がはけない(2)家の中でつまずいたり滑ったりする(3)階段を上るのに手すりが必要(4)家のやや重たい仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難(5)2キログラム程度(1リットルの牛乳パック2個程度)の買い物をして持ち帰るのが困難(6)15分ぐらい続けて歩くことができない(7)横断歩道を青信号で渡りきれない。7項目のうち一つでも当てはまればロコモ予備軍です。

 ロコモの進行状況をチェックするロコモ度テストもあります。日本整形外科学会(https://www.joa.or.jp/)のホームページからダウンロードできます。

 ロコモの予防に向けたトレーニング「ロコトレ」を始めましょう。左右1分間ずつの「片脚立ち」と、5、6回の「スクワット」をそれぞれ1日3度するだけです。スクワットは負担がかかりすぎないよう、膝を90度以上曲げないようにします。ご自分の体力に合わせて取り組んでください。

高齢者が気をつける背骨のお話パートI 腰下肢痛

川崎医科大学脊椎・災害整形外科学講師
川崎医科大学附属病院整形外科医長 射場英明


 ロコモの原因の一つに「腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症」があります。背骨の中の脊柱管という“神経の通り道”が狭くなって神経を圧迫してしまう病気で、高齢者の約50%が患っているとされます。特徴的な症状は間欠跛行(はこう)と呼ばれます。歩き始めてしばらくすると腰やお尻、足などにしびれが出て歩けなくなりますが、前かがみで休むと症状が治まるというものです。

 比較的ゆっくりと症状が進むので、しびれに慣れてしまい、長い間放置されている方がおられます。進行すれば足に力が入らなくなり、ひどい場合は便のコントロールができない膀胱(ぼうこう)直腸障害になることもあります。スリッパが脱げる、物につまずくといった症状は治療のサインです。

 軽度の場合は内服薬や神経ブロック注射で改善が見込めます。それらの治療が効かない症例には、手術療法を選択します。従来のような大きな皮膚切開を必要としない、より低侵襲な内視鏡下脊椎手術が可能です。当院でも2007年に導入し、安定した成績を収めています。通常なら手術は1時間ほどで済み、出血はほとんどありません。翌日には離床でき、1、2週間で退院も可能です。術後2カ月たてば運動制限もありません。

 まずは正しい診察、治療を受けることが重要です。整形外科医に相談してください。

高齢者が気をつける背骨のお話パートII 姿勢の異常

川崎医科大学脊椎・災害整形外科学臨床助教
川崎医科大学附属病院整形外科医師 内野和也


 重度軽度合わせて、60歳以上の約70%に背骨の変形があると報告されています。背骨が曲がる原因としては、子供の頃から側彎(そくわん)症があり、そこに加齢による変形が加わるものと、大人になってから変形が出現するものとがあります。

 背骨の変形に伴う症状は非常に幅広く、腰が痛い、長時間立っているのがつらい、前が向きにくいなどの症状はもちろんですが、呑酸(どんさん)や胃部不快感などが見られる逆流性食道炎や、最近疲れやすいといった症状も背骨の変形による可能性があります。

 高齢者の治療は、体への負担がかかる大きな手術はなるべく避け、保存加療が基本となります。腰痛に対する痛み止めのお薬や注射、コルセットなどの装具療法を行うほか、運動療法などのリハビリテーションが非常に大切です。運動療法の一環として私がお薦めするのはノルディックウオークです。姿勢の改善はもちろん、全身の筋力強化、転倒予防にもなります。

 椅子に座ると足を組む癖がある▽いつも同じ肩にかばんをかけてしまう▽毎日同じ向きで寝ている▽長い時間、同じ姿勢で座っている▽つい横座りをしてしまう―。こういった行動も見直しましょう。

高齢者が元気になる腰痛・肩こり体操

川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター主任理学療法士 杉優子

 腰痛や肩こりは、生活や仕事における長時間の同じ姿勢から生じる、肩や腰の筋肉の疲れが原因の一つです。筋肉は疲れがたまると緊張して硬くなります。筋肉の柔軟性が低下すると、筋肉は損傷しやすくなり血行も悪くなって、腰痛や肩こりにつながります。

 腰痛や肩こりを「年齢のせいだから」と放っておかず、上手に体の手入れをしましょう。今回の体操は椅子に座ったままできます。一つの動作に10~20秒かけ、ゆっくりと筋肉を伸ばします。1週間に最低2、3度は行ってください。ただし、痛みがある時は安静が第一です。

腰痛・肩こり体操 上半身

(1)首を前後左右に倒す

(2)体を丸め、そのまま体を左右に倒す

(3)両手を組んで前に突き出し、腕を左右にねじる。そのまま体も左右に倒す

(4)肘を抱えて体を左右にねじる

(5)両手を組んで上げ、体を左右へ倒す

(6)背もたれに背中をつけ、背筋を伸ばす。あごを引いて首の後ろを伸ばす

(7)両手を下げ、体を左右にねじる

腰痛・肩こり体操 下半身

(1)片脚を床に付けたまま前に伸ばし、体を前に倒す。片脚を横に広げ、体を前に倒す

(2)片脚を反対側の太ももに乗せる。腰を伸ばした後、体を丸めて前に倒す

(3)骨盤を前後左右に動かす

(4)右手を左膝の内側に当て、おなかに力を入れて押し合う。反対も行う

(5)両手を両膝の外側に当て、手足に力を入れて押し合う
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年07月02日 更新)

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