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(1)人工股関節置換術の進歩 岡山市立市民病院整形外科部長・人工関節センター長 藤原一夫

岡山市立市民病院が使用している術中ナビゲーションシステム

藤原一夫センター長 

 人工関節は股関節、膝関節をはじめ、全身の多くの関節に対して開発が進められています。今回は股関節に対する人工関節の進歩についてお話しします。

 人工股関節は国内で年間約6万件の手術が行われ、過去10年でほぼ2倍に増えました。これまでは「脱臼しやすい」「長くもたないために一生のうちで何回か入れ替えが必要」「手術創が大きい」というイメージがあり、医師からもそのような説明を受けた方がいらっしゃると思います。

 しかし近年、素材の改良、手術方法の低侵襲化(Minimally invasive surgery=MIS)、コンピューターを用いた術前計画や術中ナビゲーションなどの技術開発により、低侵襲で早期退院、早期社会復帰が可能な手術になりました。長期成績も安定しています。

 ■素材の改良

 人工股関節にはさまざまな素材が使われますが、チタン合金、コバルトクロム合金、超高分子量ポリエチレン、セラミックなどが主となっています。特に関節構造の軟骨に相当する「ライナー」(図参照)の多くが超高分子量ポリエチレンでつくられ、その架橋構造を改良することで摩耗量が劇的に減少し、長持ちするようになりました。

 さらに最近はビタミンEを添加し、その抗酸化作用により劣化を防ぐことで、耐久性を向上させています。何十年も使用できる可能性が期待されると同時に、骨頭を大きくすることが可能となります。骨頭を大きくすれば、術後の関節の可動域を大きくすることができ、「脱臼しない」ことにつながります。

 また金属の表面加工の改良により、術後初期から骨と人工股関節が強固に固定され、長く安定性が維持されるようになってきました。今後「一生のうちで何回か入れ替えが必要」というイメージが過去のものとなることが期待されます。

 ■低侵襲手術(MIS)

 低侵襲手術は「皮膚切開が小さい手術」と誤解されやすいのですが、人工股関節のMISは股関節周囲の筋肉を切らず、筋肉と筋肉の間から操作する手術であり、近年積極的に導入されています。ただし、技術的に難易度が高く、熟練した術者が行わないと、骨折やインプラント(部品)の設置不良などの合併症が多くなり、注意が必要です。術後の回復が早く、当院でも積極的に行っています。

 ■術前計画および手術の正確性

 手術前の計画は極めて重要です。特に日本人は股関節の変形が強い方が多く、どの位置に人工股関節を設置するか、エックス線画像だけでは決めるのが困難な場合があります。

 最近、CT画像から3次元的に設置計画を行うことができる術前計画ソフトウエアが開発され、変形の程度や骨欠損の有無に応じた最適なインプラント設置位置を計画することが可能になりました。正確な計画に基づいた正確な手術は、成績向上に大きく影響します。設置する角度が悪いと、術後早い段階で脱臼したり、長期的にインプラントのぶつかり現象や、辺縁部分への過剰な力の集中で摩耗を引き起こしたりします。

 術中ナビゲーション(写真参照)は正確な手術を可能にするコンピューター支援技術の代表です。極めて良好な精度で手術を行うことができ、当院も積極的に使用しています。

 ■最後に

 長寿社会を迎え、これまで以上に人工関節を必要とする患者さんが増えると予想されます。「適切な時期」に「最適な治療」を受けることが大切です。股関節の痛みでお困りの方は遠慮なくご相談ください。

     ◇

 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 ふじわら・かずお 岡山白陵高校、岡山大学医学部、同大学院卒。岡山大学整形外科助教、岡山大学医歯薬学総合研究科運動器知能化システム開発講座准教授を経て、今年4月から岡山市立市民病院勤務。日本整形外科学会専門医。日本リウマチ学会専門医。日本人工関節学会評議員、岡山大学医学部医学科臨床教授。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年07月02日 更新)

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