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小児がん支援 レモネード販売などで理解と支援訴え

レモネードを手渡して小児がん患者への支援を呼びかける「岡山レモネードスタンドの会」の渡邉弥香さん(右)=6月10日

小児がんを体験した男児の発案で制作された絵本「しろさんのレモネードやさん」

「子どもたちのどんな感情も大切にしよう」と語りかけた副島賢和さん=岡山大学金光ホール

 医療の進歩により、多くの小児がんが「治る」時代になってきた。だが、大人のがんと同様に抗がん剤や放射線治療に伴う副作用があるだけでなく、回復した後も身長が伸びなかったり、将来の生殖機能に障害が出てきたりと、発達段階にある子どもたちに特有の「晩期合併症」に悩まされることも少なくない。小児がんへの理解、支援を呼びかける「レモネードスタンド」活動と、院内学級で学ぶがんの子どもたちを見つめ続けている教師の講演会を紹介する。

レモン水販売、寄付募る 岡山県で広がる慈善活動
来月は井原 治療研究、学習助成に活用


 小児がん患者の治療や療養生活を支援する「レモネードスタンド」が岡山県内で広がっている。今年5月以降、岡山、玉野市などでレモネードを販売し、寄付を募るチャリティーイベントが開かれ、8月には小児がんを経験した小学生も参加し、井原市で行う。収益はNPO法人を通じ、治療法の研究や子どもたちの学習の助成などに使われる。

 レモネードスタンドは、小児がんを患った米国の少女が2000年に発案したチャリティー活動。闘病仲間の子どもたちのために自宅前でレモネードを振る舞い、多額の寄付が集まった。彼女が亡くなった後は基金が活動を引き継ぎ、世界的に共感を呼んでいる。

 国立がん研究センター中央病院(東京)に勤務した経験がある看護師渡邉弥香さん(31)=岡山市南区=は今年1月、友人を誘って「岡山レモネードスタンドの会」を立ち上げた。

 5月に玉野市・宇野港、6月には岡山市・イオンモール岡山内の書店でイベントを開き、「小児がん患者と家族の置かれた状況を知ってください」と声を上げ、それぞれ601杯、256杯のレモネードを振る舞った。1杯100円以上の寄付を募り、収益はNPO法人キャンサーネットジャパン(東京)に託した。

 同様のレモネードスタンドは岡山中央と岡山岡南ロータリークラブが合同で6月、岡山市・表町商店街で実施し、今月1日には同市・京橋朝市の会場でも行われ、多くの市民から寄付が集まった。

 8月4日には、井原市立高校(井原市井原町)で「みんなの笑顔をつくるレモネードスタンドin井原」が開かれ、脳腫瘍から回復した横浜市の小学5年生栄島四郎君(10)も参加する予定。井原市には栄島君の母の実家があり、小児がん体験者や家族が集まって交流する。

 会場では、栄島君をモデルにした絵本「しろさんのレモネードやさん」(吉備人出版)の原画を展示し、活動の普及に役立てる。井原市も豪雨被害を受けており、被災者の支援も呼びかける。開催時間は午前10時から午後4時。問い合わせはメールで、みんなのレモネードの会(lemonade_37no-lemon@yahoo.co.jp)、または岡山レモネードスタンドの会(miiiika.7016@gmail.com)。

男児(横浜)闘病体験基に絵本 岡山の関係者も協力

 絵本「しろさんのレモネードやさん」は、脳腫瘍の治療を受けた横浜市の小学5年栄島四郎君の体験を基に、がんと闘う子どもたちのことを知ってもらおうと制作された。栄島君の母の実家がある井原市や岡山県内の関係者も協力し、今年6月、吉備人出版(岡山市北区)が発刊した。

 物語は栄島君がモデルの「しろさん」に、「レモネードゆうえんち」の招待状が届く場面から始まる。そこは病気の子もそうでない子も一緒に遊べる夢の場所。乗り物や遊具でみんなと楽しく過ごすしろさんだが、やがて疲れて座り込んでしまう―。

 抗がん剤や放射線の治療に伴い、脱毛したり、幼稚園に行けなかったりしたこと、回復した今も疲れやすいことなど、苦しいこと、つらいことがたくさんあることをさりげなく織り込んだ。勇気を振り絞って訴えるしろさんに共感した仲間たちが手伝い、小児がん支援の「レモネードやさん」がオープン。助け合いの輪が広がっていく。

 栄島君は2016年末に初めてレモネードスタンドを開き、翌年1月に絵本を作ることを思いついた。栄島君は作文教室に通っており、先生の松崎雅美さんが彼の考えたキャラクター「レモンちゃん」と、同級生が発案した遊園地を結びつけ、物語にまとめた。

 栄島君の両親らが制作委員会をつくって構成などを話し合い、国内外の絵本に詳しい451ブックス(玉野市)の根木慶太郎店長もアドバイスした。絵本作家矢原由布子さんが描いた絵には、点滴スタンドを押したり、車椅子に乗ったりする子どもに混じり、井原市のマスコット「でんちゅうくん」も登場し、親しみやすく仕上がっている。

 小説家でもある松崎さんは「かわいい絵を生かすため、文章を短くするのが大変だった。重たいテーマだが、親子で手に取って考えてほしい」と話す。

 レモネードスタンドを開くために、どこに連絡して何を準備すればよいかといった解説や、栄島君の主治医らが寄せたメッセージなども掲載されている。

 A4判40ページ、本体1400円(税別)。問い合わせは吉備人出版(086―235―3456)。

院内学級の「赤鼻の先生」副島さん 岡山で講演
療養児の感情大切に


 小児がんなどで闘病する院内学級の子どもたちを教え、道化師に扮(ふん)して笑顔を引き出す「赤鼻の先生」として知られる昭和大学准教授副島賢和(まさかず)さん(51)の講演会が6月10日、岡山市で開かれた。副島さんは病弱児のそばにいる家族や支援者、医療・教育関係者らに対し、怒りや悲しみなどの「不快な感情」も含めて「子どもたちの持つどんな感情も大切なメッセージ。生きるエネルギーになる」と話しかけた。

 講演会は、長期入院・療養する子どもたちに学習の機会を保障しようと活動するNPO法人ポケットサポート(岡山市北区)が岡山大学教育学部特別支援教育講座と共催した。

 副島さんは昭和大学病院(東京・品川区)にある小学校院内学級「さいかち学級」の担任を8年間務め、今も白血病や脳腫瘍などのがんや、他の病気と闘う子どもと関わり続けている。

 支援する上で常に考えているのは、思いやりの根っこになる「当事者意識」。相手の立場で気持ちを考えることはたやすくない。視点を変えて見たり、想像してみたりすることと同時に、感情を大切にすることが重要だと言う。

 感情に善しあしはない。悲しみは人に優しくするエネルギーになり、悔しさや怒りは何かに挑戦するエネルギーになる。副島さんは「大人として感情をちゃんと扱うモデルになり、その後ろ姿を子どもたちに見せなければならない」と呼びかけた。

 ワークショップも実演した。病気の子が不安や怒り、悲しみ、寂しさなどを感じるとき、どんな表情やしぐさ、行動を見せるのか、用紙に書き出してみる。また、自分がそういう感情を持つとき、体にどういう変化が現れるか、おなかが熱くなる、背中が冷たくなる…などと想像し、参加者同士で話し合ってみる。

 言葉になりにくい子どもの感情を読み取るためのトレーニングだ。感情を適切に扱わないと、うまく人と関わることができず、大事なときに頑張ったり、我慢したりする力も育たないと指摘した。

 「ぼくは幸せ」という詩を残して旅立った児童のエピソードも。「空がきれいだと幸せ」と言った彼は、闘病を通じて他の人に分からない幸せを見つけ、副島さんに教えてくれた。

 「否定的な自己イメージでいっぱいの子どもを肯定的なイメージに変えることができる」。副島さんは病弱児を支える「教育の力」を強調した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年07月16日 更新)

タグ: がん子供

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