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(2)放射線科の仕事って? 岡山市立市民病院放射線科主任医長 藤原寛康

IVR-CTはCTと血管撮影装置が併設されている。CTによって確実性が増し精密な評価が行える。CT室と血管撮影室を移動する必要がなくなった

肺の腫瘍に電極針を刺し、ラジオ波によって熱を加えている治療の画像

ラジオ波治療後はやけど状態を示す陰影変化が現れる

8カ月後には腫瘍が消失したことが確認できた

藤原寛康主任医長

 放射線という言葉を耳にする機会は増えましたが、実際に放射線科医がどんな仕事をしているのか、あまり知られていないかもしれません。「放射線画像を撮影する人でしょう」と言われることもありますが、レントゲン写真やCT、MRIを撮影するのは放射線技師の仕事なのです。

 放射線科医は撮影された画像を読影し、所見を付けます。また、放射線を利用して検査や治療を行います。すなわち、画像診断、IVR(Interventional Radiology=画像下治療)、放射線治療が主な仕事となります。

 最近の機器の進歩に伴い、画像診断は現代医学の中核となる診断ツールに進化しました。単純エックス線撮影やCT、MRI、核医学検査は病気の診断や治療方針の決定になくてはならない存在となっています。

 これらの画像の読影はますます重要になっています。放射線によってより的確に診断し、適切な治療を行うことが大切です。この診断の部分で放射線科医は重要な役割を果たしています。ほとんどの診療科から画像診断の依頼があるため、放射線科医は多くの診療科と密接に連携しています。

 私はIVRを専門としています。聞き慣れない言葉かもしれませんが、画像を利用して行う、体に負担の少ない最先端の検査や治療のことです。カテーテル(細い管)、ガイドワイヤ、針などの器具や、CTなどの撮影装置を駆使し、精密な操作が求められます。放射線科は心臓と脳以外の全身の広い範囲を担当しています。

 IVRは主に血管系と非血管系に分けられ、血管系では動脈や静脈の拡張術(狭くなった部分を広げる)や塞栓(そくせん)術(詰め物でふさぐ)があります。非血管系では組織生検(病変組織の採取)、腫瘍アブレーション(熱で腫瘍を死滅させる)、膿瘍(のうよう)や胆管のドレナージ(膿(うみ)などの内溶液を排出する)、リンパ管造影などが挙げられます。

 体は動脈から送られる酸素によって生命を維持しています。血流が滞ってしまうとさまざまな弊害を生じるため、IVRで血管を拡張する治療を行います。血管内にバルーンという風船を入れたり、ステントという円筒を留置したりして、血液の流れを改善してやることができます。

 また、血管が傷んで出血しているときには、その部分をふさぐ必要があります。出血が高度な場合は生命に危機が及ぶため、緊急で塞栓術を行い、スポンジ細片や金属コイルなどを詰めて出血を食い止めます。大量出血で生命に危険がある場合、放射線科に連絡があり、私たちが緊急止血術を行っています。

 最近はIVR―CTという日本で開発された装置を使い、精密な検査や治療を行うようになりました。CTはエックス線で体内を透視する機械で、主に画像診断に用いられますが、IVRにも応用されています。

 体の深部には生命を維持する重要な臓器が多数あるため、精密な操作が必要です。CTは臓器を詳細に描出することができるため、CTで確認しながら検査を行うことにより、ミリ単位の精度で操作することが可能となりました。このように精密な操作を低侵襲で行うのがIVRです。

 従来、肺転移したがんに対し、切除などの局所治療が行われることはあまりありませんでした。しかし、最近は腫瘍の大きさ、場所、個数の条件を満たせば、電極針を刺して高周波を発生させるラジオ波治療で焼灼(しょうしゃく)できます。少数の肺転移ならば根治も期待できる時代になりました。ただし、多数の腫瘍や大きな腫瘍は依然として治療が難しく、ラジオ波治療の適応は限られています。

 さらに低侵襲の放射線治療も行えるようになってきました。より精密な放射線照射ができるようになり、患者さんは痛みも感じないまま、がんを死滅させることが可能な場合もあります。放射線治療も適応に制限があり、広い範囲や繰り返し治療を行うことは難しい状況です。今後さらなる医療の発展が期待されます。

     ◇

 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 ふじわら・ひろやす 岡山高校、岡山大学医学部、同大学院医歯学総合研究科卒。岡山大学病院、国立がん研究センターなどを経て2018年4月から岡山市立市民病院放射線科勤務。日本医学放射線学会専門医、日本IVR学会専門医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年07月16日 更新)

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