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パーキンソン病 電気刺激で症状改善 薬物療法補う手術 年20例前後 岡山大が実施

電極を埋めた患者の脳のエックス線写真を示し、脳深部刺激療法を説明する松井講師。手にしているのがパルス発生器

 手足の震えなど運動障害の症状が現れる難病、パーキンソン病。治療の基本となる薬物療法を補う方法として、脳に電極を埋め込み電気刺激を与える脳深部刺激療法が近年広まっている。中四国で有数の年二十例前後の手術を行う岡山大医学部・歯学部付属病院の松井利浩講師(脳神経外科)は「ほとんどの患者で何らかの症状の改善が得られる。特に症状の日内変動が激しい人は変動がなくなり、一日中薬が効いたような状態になって過ごしやすくなる」と効果を話している。

 パーキンソン病は脳の神経伝達物質・ドーパミンが不足するため起きる。一九六〇年代に脳内でドーパミンに変わる薬・Lドーパが開発され、薬物療法が劇的な効果を挙げた。このため、それ以前に行われていた外科治療は下火になった。

 だが、次第に薬物療法が万能でないことが分かってきた。長期間服用を続けると効果が徐々に薄れる。手足が意に反して動く不随意運動が現れることもある。そこで、九〇年代から手術の効果が見直された。

 手術を行う部位は脳の視床、淡蒼球(たんそうきゅう)、視床下核の三カ所があり、それぞれ効果が異なる。手術方法も刺激療法のほか、対象部位を焼く破壊術があるが、「運動症状全般にわたり有効」(松井講師)という視床下核の刺激療法が現在の主流になっている。

 刺激療法の装置は、電極と、それに信号を送るパルス発生器、両者をつなぐケーブルからなる。岡山大の場合、手術適応の判定のため、患者はまず一週間入院し症状の評価や麻酔の術前検査、MRI(磁気共鳴画像装置)の撮影を受ける。

 その後、あらためて入院し、二回に分け手術を行う。一回目は通常、両側前頭部の頭がい骨に直径十数ミリの穴を開け、手術前に撮影したMRIとCT(コンピューター断層撮影装置)の画像をもとに視床下核を目標に記録電極を入れる。これにより神経活動を確かめ、試験刺激を行い症状が改善することを確認後に刺激用の電極を埋め込む。手術は局所麻酔で行い、約五時間かかる。

 約一週間後に二回目の手術を行い、パルス発生器を胸に埋め込み電極とつなぐ。手術は全身麻酔だが、一時間半程度で終わる。最初の手術から三週間ほどで退院できる。

 パルス発生器は体外からリモコンで操作可能。睡眠時はスイッチを切ってもよい。薬の投与量を減らすことができ副作用を抑えられるのも利点。しかし、病気の進行などにより薬が効かない患者は刺激療法も効果がないという。

 手術が脳出血を誘発する恐れがわずかながらあるなど危険も伴う。また、パルス発生器は数年ごとに電池交換が必要となる。

 刺激療法は二〇〇〇年に保険適用となった。特定疾患の認定患者は、さらに公費負担も受けられる。岡山大はここ五年間で岡山、広島、香川、兵庫県などの患者約七十人に手術を行った。松井講師は「パーキンソン病を根治するのではないため、術後も薬物療法は続けることになる。手術するかどうかは神経内科の主治医とまず相談してほしい」と話している。


ズーム

 パーキンソン病 脳で作られる神経伝達物質・ドーパミンの分泌量が減少するため起こる。なぜ減るかは不明。手足の震えや筋肉のこわばり、動作が遅く同じ姿勢を続けるなどが代表的な症状。多くは50代以降の中高年で発症する。患者は国内で推計十数万人。国の特定疾患(難病)に指定されており、岡山県内では約1500人が適用を受けている。元ボクサーのムハマド・アリさんが発症したことでも知られる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年08月13日 更新)

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