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「真備の医療再建が最大の使命」 岡山県医師会松山会長に聞く

避難所になった倉敷市真備町地区の薗小学校で被災者を診察する岡山県医師会の医師たち(県医師会提供)

西日本豪雨で甚大な被害を受けた倉敷市真備町地区へ足しげく通い、支援活動の先頭に立つ松山県医師会長

 西日本豪雨で大規模な浸水被害を受けた倉敷市真備町地区では、地区内12の医療機関が機能停止状態に陥った。岡山県医師会は日本医師会などと共に緊急支援に全力を挙げており、ようやくテントやプレハブなどの仮設診療所で診療再開にこぎ着ける機関も出てきている。今年6月に就任し、支援の陣頭に立つ松山正春県医師会長に、被災から1カ月の取り組みを尋ねた。

 ―真備町地区では、山すそにある精神科・心療内科のまきび病院は浸水を免れ、給水支援を受けながら診療を続けましたが、80床を備える総合病院のまび記念病院と、内科や整形外科、小児科などの診療所10カ所が全て診療停止を余儀なくされました。県医師会はどう状況を把握し、支援を始めましたか。

 私は大水害翌日の7月8日に岡田小学校の避難所に入り、深刻な状況を確認しました。かかりつけ医療機関を失った被災者のため、9日から県内の医師や看護師、薬剤師らを対象に日本医師会災害医療チーム(JMAT)の募集を始め、県医師会として11日、日本医師会を通じて県外からも派遣を要請しました。

 12日の倉敷チームを皮切りに、県外から福岡、兵庫、大阪、香川などのチームが次々に来てくれました。兵庫チームがJMAT全体を統括し、各チームが出動する避難所を決めて連携しました。大災害になると、地元のわれわれは細かい情報にとらわれ、全体が見えなくなります。県外のチームは俯瞰(ふかん)的に見て、より的確にニーズを把握できるんです。

 ―地元医療機関の再開の見通しはいかがですか。

 真備の地域医療再建がわれわれの最大のミッション(使命)です。当初は再開まで何カ月もかかると思いましたが、自衛隊が出動し、被災した医療機関で泥のかき出しや浸水した設備の処分が進みました。医療機器メーカーや製薬業者の協力もあり、急速に片付きました。

 「もう再開できない」と訴えていた医師もいましたが、診療所がきれいになり、JMATが活躍する様子を見て「もう一度やる」と言ってくれています。

 ―健診車やテントの仮設診療所で診療を再開した医師もいらっしゃいますね。本格的な診療再開にはどんな課題がありますか。

 倉敷市内だけでなく総社市にも大勢の方が避難されています。現在、避難所から仮設診療所へ巡回バスが運行されていますが、今後被災者が仮設住宅などに転居すると、元のかかりつけ医に通院できない人が出てくる恐れがあります。仮設住宅からも通院手段が確保できるよう、行政と話し合っていこうと思います。

 被災者が住み慣れた地域に帰れないという状況にならないよう、できるだけ地域医療圏の中で対処していかないといけません。まび記念病院が早く再開し、バックアップ体制を整える必要があります。介護施設などの復旧も急務です。それが「地域包括ケア」の再建につながります。

 医療機器や資材の問題もあります。水損したレントゲンや超音波診断装置、診療報酬明細書の作成システムなどを再整備すると数千万円はかかるでしょう。県医師会、日本医師会ともに義援金を募集しており、再開する医療機関のために役立てたいと思います。

 ―松山会長は県医師会理事を務めていた頃、東日本大震災の救援活動に携わったそうですね。

 日医の救急災害医療対策委員会に関わっていて、2011年3月11日の大震災から2日後、福島県いわき市に入りました。激しい余震や原発事故が続き、怖かったです。

 当時、JMATの仕組みができたばかりで訓練も行ったことがなかったのですが、記者会見して「JMATおかやま」の募集を開始しました。開業医が自分の診療を休んででも行くと、どんどん名乗りを上げてくれました。医師会の活動はすごいと、認識を新たにしました。

 ―熊本地震の時も岡山からJMATが派遣され、熊本県益城町などの避難所で活躍しました。一方、「岡山は災害が少ない」という先入観があったように思います。支援を受ける側になるという想定はできていたのでしょうか。

 誰もこんな大災害を予測できず、われわれもJMATを派遣することはあっても、受援することはないと思っていました。

 昨年から岡山大学医学部教授らにアドバイスしていただき、県医師会として災害対策のマニュアル改定を進めようとしています。受援の体制づくりもはっきり書き込もうと話し合っていましたが、その最中に被災してしまいました。郡市医師会と行政との協定などにも反映されるでしょうから、策定を急がなければなりません。

 今回、県医師会館に備蓄していた保存米や水を持って行きましたが、当初は受け入れ体制ができておらず、仕分けする人もいませんでした。被災者の医療も、打撲などの外傷治療から皮膚疾患、結膜炎などの眼科疾患へと、日ごとにニーズが変わっています。これから課題を整理していこうと思っています。

 まつやま・まさはる 岡山大学医学部卒。同第一外科に入局し、広島県庄原赤十字病院などに勤務後、松山胃腸科外科(岡山市南区松浜町)を開業。岡山市医師会副会長、岡山県医師会理事、同副会長を経て今年6月に会長就任。74歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年08月07日 更新)

タグ: 医療・話題

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