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薬物治療はテーラーメード 遺伝子検査などで効果ある薬選択

横山俊秀・呼吸器内科医長

松嶋史絵室長

 体に備わる免疫機能を活性化する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、がん細胞が持つ特定の遺伝子を狙う分子標的薬―。近年、進行期の肺がん(IV期)の薬物療法には従来の抗がん剤に加えてさまざまな治療薬が登場している。

 だが、アラカルトで好きな薬を選べるわけではない。一人一人の病状や体力に合わせて仕立てる“テーラーメード”の治療が組まれる。

 「その人に最も効果が期待できる“個別化医療”が求められる時代」。倉敷中央病院呼吸器内科の横山俊秀医長は強調する。「これまでは『この病気にはこの薬』だったが、分子レベルでがんのタイプを把握し『この患者さんにはこの薬』という考え方に変わってきた」と言う。

 初回の薬物治療でどの薬を使うか、一般的には次のような検査で決める。

 肺がんの8割余りを占める「非小細胞肺がん」(腺がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がんなど)の場合、まずはがん細胞の遺伝子検査と、免疫のスイッチの妨害に関係するタンパク質PD―L1の検査を行う。

 遺伝子検査では、がん細胞を増やす遺伝子異常(変異)があるかどうかを確かめる。これまでにEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子ROS1融合遺伝子などが特定されており、それぞれの遺伝子異常があれば、イレッサ、アレセンサ、ザーコリといった対応する分子標的薬が使える。

 これらの遺伝子変異がなく、かつPD―L1が多く認められれば(出現率50%以上)、ICIのキイトルーダを検討する。遺伝子異常がなく、PD―L1もほとんどない患者は、抗がん剤による治療を行う。

 初回治療で効果が見られない、または再発した場合の2次治療で使える薬もある。EGFR遺伝子に特定の異常があればタグリッソなどの分子標的薬、遺伝子異常がなければICIのオプジーボなどが使える。抗がん剤も選択肢が以前より増えている。

 一方、転移の早い「小細胞肺がん」に対しては、ICIや分子標的薬はまだ効果が十分確認されておらず、抗がん剤中心の治療が行われている。

 倉敷中央病院では、初回の薬物療法時、病状や経過の確認とともに、患者自身に病気や治療について知ってもらうため、1~2週間の入院を求めている。

 一番心配なのは重大な副作用。医師や看護師、薬剤師が薬の特徴や副作用の症状、起こった際の病院側の対応などをあらかじめ説明し、心構えを促す。通院治療になれば患者が自分で体調を管理し、副作用に備えなければならない。

 外来化学療法センターで診察する際も、副作用が現れていないかを丁寧に確認する。横山医長は「注意すべき副作用が疑われれば、私たち呼吸器内科だけでなく、救命救急センターや各診療科でも対応するなど、院内の連携が進んでいる」と話す。

 副作用は脱毛や肌の変色、爪の変形など、容姿や外見の変化にも現れる。悩みを抱える患者のために「脱毛ケア相談会」や「アピアランスケア相談会」を定期的に開き、患者の精神面や生活のサポートにも力を入れている。

高い薬価 負担軽減制度活用を 相談支援センター助言

 免疫薬ICIや分子標的薬は、従来の抗がん剤に比べて高額なケースがほとんど。治療に対し、経済的な不安を抱える患者は少なくない。そんなときに無料で相談に乗ってくれるのが、全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」だ。

 ICIのオプジーボが登場した際、その効果とともに注目を集めたのが、「1年間使い続ければ1人当たり3500万円かかる」とされた高い薬価だった。その後、大幅に引き下げられたものの、倉敷中央病院がん相談支援センターの松嶋史絵室長は「がん治療にはお金がかかるというイメージは根強く、治療費に関する相談は後を絶たない。高額療養費制度を活用すれば、自己負担をかなり抑えられることを知ってほしい」と話す。

 高額療養費制度を使えば、1カ月ごとに病院や薬局で支払った金額が上限額を超えた際、超過額を払い戻してもらえる。上限額は所得や年齢で異なり、例えば年収約370~770万円の69歳以下の人で総医療費が100万かかった場合、8万7430円。病院や薬局でいったん3割負担分の30万円を支払うが、申請により超過分21万2570円が戻ってくる。同一世帯の医療費を合計する「世帯合算」も認められる。

 また、治療が長期化し、1年以内に3回上限額に達していた場合、4回目以降はさらに自己負担額が引き下げられる特例(多数該当)もある。前述の年収・年齢の人で約半額の4万4400円になる。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、3割の窓口負担をすることなく上限額の支払いだけで済む。

 会社員らは療養中の給料の一部を補償する「傷病手当金」を受け取れるケースもある。病状によって労働や日常生活が制限される場合、審査を経て「障害年金」を受給できる可能性もある。

 松嶋室長は「これらの制度は基本的に加入している保険機関や年金事務所で申請手続きをしなければ支給を受けられない。治療と仕事をどう両立させるかを含め、経済的事情で治療を断念することを防ぐため、まずは相談してください」と呼びかける。

 ■倉敷中央病院(倉敷市美和、086―422―0210) がん相談支援センターは来院または電話による相談に無料で応じる。相談時間は平日午前9時~午後5時と土曜日午前9時~午後1時。日曜、休日は休み。直通電話は086―422―5063。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年08月07日 更新)

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