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青年期外来 慈圭病院 青木省三 精神医学研究所所長

青年期外来のカンファレンスではさまざまな職種のメンバーが自由に意見を出し合い、青木省三医師(右端)と共に関わり方の方針を決める

青木省三所長

 自分はいかに生きるべきか、自分は何をしたいのか―。思春期から青年期にかけ、誰しも思い悩み、漠とした不安に駆られる。多くの人はいつの間にか葛藤の時をくぐり抜け、自立への階段を上っていく。

 だが、堂々巡りで考え続け、沼からはい上がれなくなる人もいる。学校に行けなくなれば「不登校」、部屋に閉じこもってしまうと「ひきこもり」。慈圭病院(岡山市南区浦安本町)で精神医学研究所所長を務める青木省三医師は40年間、そうした青少年と向き合い続けている。

 生きづらさを抱える彼らの多くは、人が怖かったり、話をすることが難しかったり。“妙薬”があるわけではない。ゲーム、テレビ番組、ネット動画…何でもいい。青木医師は診察室でじっくり時間をかけ、言葉のキャッチボールを交わすきっかけを探る。

 「教えてもらう」姿勢で聞き役になる。「ゲームをしていて知らないうちに街に出ていた」と話してくれた子に「どんなゲーム? どうやるの?」と尋ね、話を膨らませていく。部外者からは雑談に見えても「楽しいことが増えていくことが、元気になるためにすごく大事」なのだと言う。

 1980年代、岡山大学病院精神科神経科に勤務していた頃に「思春期外来」の看板を掲げた。それまでの精神科医療は統合失調症やうつ病といったきちんと診断がつく患者を主に診ていたのに対し、青木医師はさまざまな症状や状態で困っている若い人たちに関わっていくことが必要だと考えていた。

 同大助教授、川崎医科大学教授を経て、駆け出し時代に修業した慈圭病院に戻ってきた。大学病院でやり残した仕事を仕上げたいという思いで、今年5月から「青年期外来」チームを率いている。

 目指すのは「診察室を外に開いていく」こと。診察室まで来られずに家で悶々(もんもん)としている人、時間がたつほど追い込まれ、外に出られなくなる人にどうやって手を差し伸べるか―。そのために精神科医だけでなく作業療法士、看護師、心理士、精神保健福祉士ら多職種でつくるチームの力を発揮する。精神科専門のスタッフがそろう慈圭病院でこそできる体制だ。

 毎週20人余りのチームメンバーが集まるカンファレンスで、1人ずつ担当する青少年の状況を報告する。音楽が好きだと分かれば「院内にある楽器を使って何かできないかな?」と声が上がる。職種の垣根を越えてアイデアを出し合う試みが始まっている。

 義務教育期間は、学校に行けなくても教師や同級生と接触する機会が少しはある。だが卒業年代になり、進学も就職もしなければ、家族以外との関わりはほとんどなくなってしまう。「そうした人たちのため、私たちが一歩踏み出し、地域に出て行きたい。少しずつ手探りでアプローチしている」と青木医師は言う。

 原点には自身の青少年時代がある。広島で育った義務教育、高校の頃はずっと「教室の中にいるのがしんどい」と感じ「家にこもるようになっても不思議でなかった」と回想する。けれども、折々に助けてくれる教師や友人が現れ、道が開けていった。

 だから、孤立感にさいなまれる青少年はひとごとではない。「かつて自分が助けられたように、彼らに対してできることがあるのではないか。何とかして彼らを人とつなぎ、希望の灯(あか)りをともしてあげたい」

 眼鏡の奥から見守るまなざしはどこまでも優しい。

     ◇

 慈圭病院(086―262―1191)。青年期外来は毎週木曜日午後1時から5時まで。15歳から29歳の人が対象で予約が必要。

 あおき・しょうぞう 広島大学附属高校、岡山大学医学部卒。慈圭病院、岡山大学病院精神科神経科助教授、川崎医科大学精神科教授を経て、今年4月から慈圭会精神医学研究所所長。川崎医科大学名誉教授。英国ベスレム王立病院青年期ユニットなどに留学。専門は青年期精神医学と精神療法。「ぼくらの中の発達障害」(ちくまプリマー新書)など著書多数。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年09月03日 更新)

タグ: 精神疾患慈圭病院

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