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(4)泌尿器科疾患に対するレーザー治療 岡山市立市民病院泌尿器科診療部長 津川昌也

表1

イラスト1

表2

イラスト2

ホルミウムヤグレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)の手術の様子

津川昌也泌尿器科診療部長

 レーザーにはいろいろな種類があり、それぞれ医療分野で診断、治療に使用されています。ホルミウムヤグレーザーというレーザーは泌尿器科治療で最もよく使われています。

 ホルミウムヤグレーザーは波長2100ナノメートルの赤外線域のレーザーであり、水への吸収率が高く、組織到達深度はわずか0・4ミリです。5ミリ離れると組織には障害を与えません。したがって、生理食塩水などで尿道・膀胱(ぼうこう)・尿管を満たして行う泌尿器科内視鏡手術に適しています。

 組織の切開、凝固・止血だけでなく、パルス発振によって得られる高いピークパワーをもつので、破砕にも効力を発揮します。このため、主に切開、凝固を必要とする前立腺肥大症や、破砕を必要とする尿路結石の内視鏡手術に使われています。

 ■前立腺肥大症に対する手術

 前立腺肥大症は主に前立腺内腺の良性過形成により、尿の出が弱くなる、夜間頻尿、残尿感などを訴える疾患で、有病率は50歳代で40%、60歳代で50%、70歳代で60%と、加齢とともに増加します。

 ほとんどの場合、初期治療として内服治療が行われますが、尿が出せなくなる尿閉、膀胱結石を合併している患者さんには初期治療として手術が行われることもあります。また、薬物治療の効かない患者さんにも手術が行われます。

 表1に示したようにいろいろな術式の手術があり、それぞれ特徴があります。上の四つの術式は病理組織検査が可能ですが、下の三つは病理検査ができません。当院は大きな前立腺肥大症にも対応でき、最近増えている抗凝固剤内服を継続中の患者さんでも手術が可能なホルミウムヤグレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)を行っています(イラスト1参照)。

 従来、前立腺肥大症に対する標準的術式は経尿道的前立腺切除術(TURP)でしたが、15年以上前からHoLEPが行われるようになりました。日本泌尿器科学会などに所属する医療機関に対して1999年から行っているアンケート調査では、近年TURPの大幅な減少が目立ちます。一方、術中出血の少ないレーザー治療であるHoLEP、PVPが増加しています(表2参照)。

 ■尿路結石に対する手術

 1965年から10年ごとに尿路結石の全国疫学調査が行われています。2005年までは尿路結石の年間罹患(りかん)率は上昇傾向にありました。食生活や生活様式の欧米化、診断技術の向上、高齢化などが原因と考えられています。しかし、15年の調査では罹患率増加に歯止めがかかり、横ばい状態でした。

 男性では7人に1人、女性では15人に1人が一生に一度は尿路結石に罹患すると言われ、男性に多い疾患です。上部尿路結石(腎結石、尿管結石)では側腹部の激しい痛み(疝痛(せんつう)発作)、下部尿路結石(膀胱結石、尿道結石)では排尿困難や血尿を呈してきます。疝痛発作は気温の上昇する7~9月に多く、地球温暖化により、有病率が増えているのではないかと推測されています。

 上部尿路結石の患者さんのうち約60%は内服治療や経過観察などの保存的治療が行われていますが、約40%は体外衝撃波結石破砕術(ESWL)などの手術療法が行われています。

 2005年の調査ではESWLが手術療法の90%を占めていましたが、15年の調査では60%に減少し、ホルミウムヤグレーザーなどを使用する内視鏡治療である経尿道的結石破砕術(TUL、イラスト2参照)や経皮的結石破砕術(PNL)が40%に増加していました。これは尿路結石症診療ガイドライン2013年版でESWLが推奨される病態が縮小し、TULやPNLが推奨される病態が拡大していることが影響していると考えられます。

 当院は2010年にホルミウムヤグレーザー治療装置を導入し、これまでに400例以上の前立腺肥大症、250例以上の腎・尿管結石を治療してきました。すべての患者さんで開腹手術に移行することなく、内視鏡治療ができました。入院期間が短くて済み、早期に社会復帰されています。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 つがわ・まさや 倉敷青陵高校、岡山大学医学部卒。香川県立中央病院、福山市民病院、岡山大学病院泌尿器科講師などを経て2003年4月より岡山市立市民病院勤務。日本泌尿器科学会専門医・指導医、泌尿器腹腔鏡技術認定制度認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、ICD制度協議会認定インフェクションコントロールドクター、日本性感染症学会代議員、岡山大学医学部医学科臨床教授、医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年09月03日 更新)

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