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ミトコンドリア病抑制にタウリン 大量投与で確認 川崎医科大教授ら

砂田芳秀教授

 国指定難病「ミトコンドリア病」の患者にアミノ酸の一種・タウリンを大量投与すれば、体のまひや視覚異常といった脳卒中に似た発作を抑えられることが、川崎医科大の砂田芳秀教授(神経内科学)らによる臨床試験(治験)で分かった。ミトコンドリア病で最も発症頻度が高い「MELAS(メラス)」という病気のタイプで、患者10人のうち6人で発作が起きなくなるなどの効果を確認したという。

 タウリンは体内でさまざまな働きをし、健康維持に欠かせない物質。国内の先行研究では、体内の遺伝子変異によって細胞内にアミノ酸を運ぶRNA(運搬RNA)にタウリンがくっつきにくくなることで、ミトコンドリアによるタンパク質の合成が阻害され、メラスの症状が起きることが分かっている。

 このことから砂田教授らはタウリンを大量に投与すれば症状が改善すると仮定し、2013、14年度に全国10の病院で10~40代の患者男女10人に1年間、1日9~12グラムを毎日服用してもらった。心不全や肝機能が低下した患者に処方するタウリンは1日3グラム程度で、3~4倍に当たるという。

 服用の結果、タウリン投与前の1年半の間に6~2回の発作が起きていた患者6人は臨床試験中、全く再発しなかった。そのほかの発作頻度では、4回から1回に減った患者が2人、残る2人は2回から1回になった。副作用も下痢などが一部の患者で見られた程度だった。

 今回の結果を受け、タウリンを提供した国内の製薬会社は、国の開発要請を踏まえ、発作を抑える医薬品としての承認を得る手続きを行った。

 ミトコンドリア病は脳だけでなく、心臓や筋肉などさまざまな器官で症状を引き起こすとされる。砂田教授は「脳卒中に似た発作以外にも、ミトコンドリア病患者に対して、タウリンがどんな効果を持つのか調べていきたい」としている。

 ミトコンドリア病 エネルギーをつくる細胞内の小器官・ミトコンドリアの遺伝子に変異があると発症し、脳疾患や不整脈、筋力低下などを引き起こす。母親から遺伝することで知られ、根本的な治療法は見つかっていない。患者は5千~7500人に1人と推定されている。

 画期的な効果実証

 ミトコンドリア病に詳しい自治医科大の小坂仁教授(小児神経学)の話 メラスの患者は多いが、有効な治療薬はない。タウリンと病態との関連を解明した日本発の基礎研究を踏まえ、砂田教授らは治験で画期的な効果を実証した。医薬品として早期に承認されることを期待したい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年10月29日 更新)

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