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(5)運動器の健康と充実した社会生活 岡山ろうさい病院整形外科副部長 依光正則

依光正則副部長

 今回は整形外科で扱う運動器(筋肉・骨・関節)の健康に関するお話をさせていただきます。

 皆さんも「メタボリックシンドローム=メタボ」という言葉をご存知でしょう。肥満と生活習慣病の発症に関連があることが認知され、1998年にWHO(世界保健機関)が診断基準を作成したことで、一般の方にも知られるようになりました。

 一方、加齢に伴う運動器の障害や筋力の低下などにより、歩行が困難になるなど日常生活に支障をきたし、介護が必要になった状態、または、そのリスクが高い状態のことを「ロコモティブシンドローム=ロコモ」と呼びます。2007年に日本整形外科学会が提唱しました。

 この言葉はまだ十分に認知されていませんが、健康な状態で長生きするために、運動器の健康を維持することが重要です。

 ロコモの危険因子として、骨量と筋量の減少が挙げられます。働き盛りの人にとっては関係ないと思われるかもしれませんが、骨量は20歳まで著明に増加するものの、それ以降は増加することはなく、女性は閉経の前後、男性は60歳以降で急速に低下するといわれています(「骨量と大腿骨(だいたいこつ)近位部骨折の年代別発生率」参照)。

 同じように、筋肉量は40歳代以降で毎年0・5~1%ずつ低下するといわれています(「筋肉量の加齢による変化率」参照)。忙しさから運動がおろそかになり、栄養摂取がアンバランスになれば、なおさらロコモへの危険性が高まってしまいます。若い頃から運動習慣や食習慣への注意が必要です。

 筋量や骨量の減少は、運動器疾患の危険性を高めます。疾患が生じると、イラストのように、さらに運動障害が加速される原因になります。代表的な疾患として、関節に起因する半月板損傷や変形性関節症、脊椎に起因する椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄(きょうさく)症などがあります。運動機能低下により、けがをしやすくなることで、骨折や脱臼などの危険性も高まります。

 これらの疾患の多くは運動器の疼痛(とうつう)や動きの制限を起こすので、日常生活動作も制限されます。また、脊椎疾患では疼痛や動きの制限に加えて、しびれや麻痺(まひ)などの神経症状も生じ、活動性の低下をきたします。

 疾患による運動障害を軽減するには、適切な治療を受ける必要があります。半月板損傷では、年齢や症状の程度にもよりますが、関節鏡を用いた縫合術や切除術を行い、侵襲の少ない治療ができる場合が多くあります。

 進行して関節軟骨が完全に傷んでしまった場合でも、人工関節置換術などにより痛みをとることが可能です。また、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などに対しても手術治療が可能です。内視鏡などを使ったより低侵襲な手術を行うことで、早期に社会復帰できるようになります。

 私自身は外傷を専門として治療しています。働き盛りの人が外傷で働けなくなると、社会にとっても大きな損失となります。外傷治療は日々進歩し、治療期間も短縮されてきています。患部を適切に固定し、早期に関節運動を行うことによって、早期の社会復帰を促し、機能障害を最小限にとどめることを目指しています。

 最近は高齢者の骨折が増加しており、寝たきりや要介護者の増加は深刻な社会問題になっています。比較的若い壮年期の年代でも、転倒などの軽微な外傷によって骨折を生じる方が少なくありません。

 若いうちからしっかりとロコモ予防に取り組み、健康寿命を延ばしていくことが、社会にとっても重要なことだと考えます。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 よりみつ・まさのり 香川医科大学(現香川大学)医学部卒。岡山大学整形外科に入局し、厚生年金高知リハビリテーション病院、福山市民病院救命救急センターを経て2012年より岡山ろうさい病院に勤務。オーストラリアPrincess Alexandra Hospitalに留学。日本整形外科学会専門医、日本骨折治療学会評議員、医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年11月19日 更新)

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