文字 

(4)痙縮の治療 倉敷平成病院・倉敷ニューロモデュレーションセンターセンター長 上利崇

痙縮の治療で行われる手術の様子

 痙縮(けいしゅく)とは、筋肉に力が入りすぎてつっぱってしまい、手足が動かしにくくなる障害です。手の指が握ったままで開きづらい▽肘が曲がったままで伸ばしにくい▽足の先が曲がってしまい、足を地面につけにくい▽つっぱりのために痛みが生じて眠れない―などの症状があります。

 痙縮は脳卒中や頭部外傷、脳性麻痺(まひ)、脊髄損傷など、脳や脊髄のさまざまな病気によって起こります。症状を緩和することで、日常生活動作(ADL)の改善が期待できます。通常、内科的な治療とリハビリテーションを行いますが、治療が困難な場合には、機能的脳神経外科が担当する外科的治療を組み合わせることが有効です。

 私たちの体の筋肉を動かしているのは脳です。筋肉に力を入れる際には、脳からの指令が脊髄の運動神経に伝わり、運動神経の興奮によって筋肉が収縮します。筋肉の力を緩める時は、脳から抑制性の指令が伝わります。

 脳や脊髄から筋肉への通り道が障害を受けると、脳の出す指令が伝わらなくなり、脊髄の運動神経が勝手に興奮して、筋肉の異常な緊張状態が起きます。これが痙縮の主な病態です。

 治療としては、主に薬物療法、リハビリテーション、ボツリヌス療法、神経ブロック療法が行われ、外科的療法としては末梢(まっしょう)神経縮小術、バクロフェン髄注持続療法があります。

 薬物療法の薬には、神経に作用して、神経伝達の興奮を抑えて筋肉の緊張を和らげるものや、筋肉に直接作用する働きのあるものがあります。

 ボツリヌス毒素を筋肉内に注射するボツリヌス療法や、局所麻酔薬などを注射する神経ブロックでも、筋肉の緊張を和らげることができます。特に、痙縮が起きている筋肉が体の一部に限られる場合に有効です。ただし、ボツリヌス療法でも効果が続くのは数カ月間で、継続的な治療が必要です。

 リハビリテーションも非常に重要です。筋肉の緊張を和らげ、その状態を維持し、運動機能を改善するために行います。

 内科的治療では症状の緩和が困難な場合、外科的療法を検討します。末梢神経縮小術は、原因となっている運動神経の一部を細くして、筋肉に異常な興奮が伝わりにくくする治療です。脳卒中や頭部外傷、脳性麻痺などの後遺症により、肘の屈曲や、足の関節が内側に反ってつま先が下を向く内反尖足(ないはんせんそく)が見られる方などに有効です。

 手術の創部は小さくてすみ、低侵襲で安全に行うことができます。顕微鏡を用いて皮膚の下の比較的浅い場所を走行する運動神経を探し当て、異常を起こしている筋肉の神経を細くすることで、筋肉の緊張を和らげます。

 全身性の痙縮が強く、内科的治療が困難な場合には、バクロフェン髄注持続療法が適応となります。痙縮を和らげる作用のあるバクロフェンという薬の入ったポンプを腹部に埋め込み、脊髄を包んでいる脊髄硬膜下腔(かくう)という場所にカテーテルを通し、ポンプにつなぎます。少量の薬を持続的に、直接脊髄へ投与することができるため、内服治療よりも効果的です。

 症状をコントロールするため、埋め込んだポンプがあるおなかにプログラマを当てて操作し、薬の投与量などを調整します。

     ◇

 倉敷平成病院(086―427―1111)

 あがり・たかし 広島県出身。岡山大学医学部卒。社会保険広島市民病院、静岡てんかん・神経医療センター、岡山大学病院などを経て、2017年から倉敷平成病院に勤務。医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本てんかん学会専門医・指導医、日本定位・機能神経外科学会機能的定位脳手術技術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年12月03日 更新)

ページトップへ

ページトップへ