(5)ニューロモデュレーションとリハビリの融合 倉敷平成病院 倉敷ニューロモデュレーションセンターセンター長 上利崇、倉敷平成病院 リハビリテーション部理学療法科科長 山下昌彦

イラスト1

イラスト2

ニューロモデュレーション療法では、理学療法士による術後のリハビリテーション、運動療法が重要になる

山下昌彦科長

 機能的脳神経外科におけるニューロモデュレーション療法とは、異常を来した神経機能に対して、体内に埋め込んだ刺激装置を用い、神経(ニューロン)を調節(モデュレート)することで症状の改善を図る治療法です。

 主な対象は、薬物治療などでは十分な効果が得られない方、または副作用の出現などにより症状コントロールが難しくなった方です。パーキンソン病などに対しては脳深部刺激療法(DBS)や定位的脳手術(熱凝固など)が、難治性の慢性疼痛(とうつう)などに対しては脊髄刺激療法(SCS)が選択されます(イラスト1参照)。

 ニューロモデュレーションセンターは、医師以外にも多くの専門職を擁しています。リハビリテーション(リハビリ)については、主に理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士が関わり、手術前後の機能の評価や訓練を行い、回診や症例検討会に参加しています。

 ▽パーキンソン病に対する脳深部刺激療法とリハビリの融合

 パーキンソン病に罹患(りかん)すると脳内のドパミンが減少するため、震えや体のこわばりが現れたり、動作が緩慢になったり、歩行時に足がすくんだりするなど運動障害を生じます。

 内服による治療も年数が経過すると薬効が減弱し、1日の中で体の動きやすさが変動するようになります(ON/OFF状態)。この差が大きいほどDBSの適応となりますが、外来診療の限られた時間では、変動を見極めることは困難です。そこで、術前検査入院した上で、薬剤師の服薬調整による意図的なON/OFF状態に合わせて、リハビリ専門職が運動機能および認知機能の変動を評価します。

 DBSにより症状は緩和されますが、病気の進行を止めることはできません。また、DBSは体軸症状(前屈(かが)み姿勢などの姿勢バランス障害や構音・嚥下(えんげ)障害など)には効きにくいとされ、術後のリハビリが重要となります(イラスト2参照)。

 症状により内容は変えますが、意識的に全身を大きく動かす運動や、ノルディック杖(つえ)などを用いた歩行練習、生活動作練習、発声・嚥下訓練などを行います。

 ▽難治性慢性疼痛に対する脊髄刺激療法とリハビリの融合

 体に受けた侵害刺激が末梢(まっしょう)神経から脊髄を伝わり、脳に到達した時に初めて、人は痛みを認識します。慢性疼痛は外傷直後などに生じる急性痛と違い、傷が癒えた後でも、神経系の感度や構造が変化し、脳が痛みを感じ続けることにより起きます。「痛い」という感覚だけでなく「つらい・苦しい」という情動も痛みに含まれます。

 慢性疼痛を有する患者さんは、消極的かつ破局的な思考や社会的な喪失感を持ちやすく、さらに痛みを増幅させる要因となります。つまり、慢性疼痛とは身体的な痛みのみならず、心理的かつ社会的要因などの痛みが複雑に絡み合った状態と言えます。

 慢性疼痛に対するSCSの効果を高めるには、術後の運動療法が重要となります。SCSにより疼痛が緩和されることで、筋力低下などの機能喪失や不活動症候群に対するリハビリが容易になります。全身を動かす有酸素運動や適度の筋力トレーニングは、運動機能の改善および痛みの軽減が期待できます。

 一方、SCSによって体が動きやすくなっても、痛みに固執してしまい、その効果を実感できない方もいます。慢性疼痛の治療において完全な鎮痛を図ることは難しく、痛みの増減のみに目を向けるのではなく、「痛くてもできることは何か」と、考え方や行動を意識的に変えていく心理療法(認知行動療法など)も重要となります。

     ◇

 倉敷平成病院(086―427―1111)。

 やました・まさひこ 岡山県出身。岡山健康医療技術専門学校(現岡山医療技術専門学校)卒。理学療法士。介護老人保健施設勤務を経て2000年から倉敷平成病院に勤務。日本理学療法士協会、日本リハビリテーション臨床教育研究会など所属。

 あがり・たかし 広島県出身。岡山大学医学部卒。社会保険広島市民病院、静岡てんかん・神経医療センター、岡山大学病院などを経て、2017年から倉敷平成病院に勤務。医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本てんかん学会専門医・指導医、日本定位・機能神経外科学会機能的定位脳手術技術認定医。

(2019年01月21日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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