(7)頸部痛と腰痛―スマートフォン症候群って? 岡山ろうさい病院副院長・整形外科部長 田中雅人

肩こりを中心とする頸部痛はキーボード作業や家事で手を使うことなどが原因で起こる

スマートフォン症候群を予防するため、うつむきにならないよう、スマホの画面を高い位置に持ち上げるのが望ましい

腰痛への対処の基本は体操や散歩で腰回りの筋肉を鍛えること

CT画像を撮影するOアーム(奥)などの機器を用いて小さい傷で精密に行う手術法が可能になっている

田中雅人副院長

 今回は頸部(けいぶ)痛と腰痛についてお話しさせていただきます。

 頸部痛は働き盛りの年齢で2番目に多い症状とされています。その原因の一つに挙げられるのが、コンピューターやスマホの画面を常に見ながらキーボードを打つ作業が増えてきていることです。スマホの長時間使用によって、肩こりを中心として、腱鞘炎(けんしょうえん)、眼精疲労、視力低下などの多くの症状を来す病気は「スマートフォン症候群」と呼ばれます。

 日本のスマホ普及率はなんと50%を超え、2人に1人はスマホを持っていることになります。近年、スマートフォン症候群は社会現象にもなっているようです。

 主に女性の方ですが、掃除や洗濯などの家事で手を使うことが多く、なで肩に代表される頸部から肩回りの筋力がないことも、肩こりを起こす原因の一つです。五十肩に代表される肩関節の痛みは、肩の動きが痛みのために制限され、夜間に痛みが強くなるという特徴を持っています。

 スマートフォン症候群の予防法としては、スマホを30分ぐらい使用したら一度は休憩を挟み、頸部や肩のストレッチ体操をすることです。また、モニター画面をのぞき込む時にうつむきにならないよう、高い位置にモニターを持ってくることが望ましいです。

 肩や首の痛みが長引いたり、手に電気が走るような痛みが出てきたりした場合には、近くの整形外科の医師に相談することをお勧めします。

 次は働き盛りの年齢に最も多いとされる腰痛です。太古、私たちの祖先が2本足で直立した時から、腰痛は避けられない運命となっています。立つためには腰回りは細くなる必要があり、さらには重力にあらがうため、椎間板と呼ばれる背骨の軟骨は、他の動物よりも早く傷んでしまうことになりました。

 腰痛を来す代表的な疾患とされている腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間にあるクッションの椎間板が後方に飛び出し、神経を圧迫することによって生じます。

 腰痛の対処法の第一は、腰痛体操や散歩などで腰回りの筋肉を鍛えることです。もし適切な運動をしないまま極端な減量をしてしまうと、主として筋肉の量が減ってしまい、かえって腰痛が悪化してしまうことがあります。

 第二は、日常生活での姿勢に注意することです。中腰で重いものを持つことが腰に非常に大きな負担をかけます。第三は、残業や大掃除などにより腰に負担をかけたことが明らかな場合は、痛みが和らぐまで無理をしないようにすることです。

 病院での治療は、腰を温める温熱療法、腰椎牽引(けんいん)療法、腹筋や背筋を鍛える腰痛体操などがあります。さらに腰痛が長引く場合は、痛みを和らげる薬、腰を保護するコルセット、ブロック注射などがあります。最近ではヘルニコアという薬を注射し、腰椎椎間板ヘルニアを吸収して圧迫を取り除く治療が可能となっています。

 また、局所麻酔下で内視鏡を使用し、最小侵襲の方法(PED)でヘルニアを切除することも可能です。皮膚の傷は6ミリ程度で、数日の入院期間で済みます。

 さらには、Oアームという最新の機械で手術中にCT撮影し、コンピューターで制御された手術台や脊椎ナビゲーションを駆使することにより、傷んだ背骨をしっかりと固定する手術法もあります。傷はほんの数センチです。当院をはじめ限られた病院で行われています。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)。

 たなか・まさと 岡山大学医学部、同大学院卒。国立病院機構岡山医療センター、岡山大学整形外科准教授を経て2017年より岡山ろうさい病院に勤務。副院長、脊椎センター長、整形外科部長。オーストラリア・アデレード病院、ロンドン大学に留学。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医、日本側弯(そくわん)症学会幹事。医学博士。

(2019年01月21日 更新)

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