(1)冠動脈ステント治療について 心臓病センター榊原病院 循環器内科内科主任部長 廣畑敦

急性心筋梗塞で閉塞した冠動脈のステント治療。治療前(写真上)には血流が途絶えて写っていなかった血管が治療後(写真下)にはくっきり写っている

廣畑敦主任部長

 皆さんは狭心症、あるいは心筋梗塞という病名を聞いたことがあるでしょうか。心臓に栄養を届ける血管(冠動脈)に動脈硬化が生じた結果、この冠動脈が狭くなったり、閉塞(へいそく)したりすることによって起こる病気です。

 現在、これらの病気に対して行われる治療方法としては、(1)飲み薬による治療(2)狭くなった血管の先に、外科的に新しい血管をつなぐ冠動脈バイパス手術(3)手や足の動脈からカテーテルという細い管を入れて行うステント治療―などがあります。今回はその中で最も一般的に行われているステント治療についてご説明します。

 ステントとは金属でできた円筒形の網のことで、材質はコバルトクロム、ステンレス合金などが使用されています。直径は2・25ミリから4ミリ、長さは8ミリから48ミリと、さまざまなバリエーションがあり、冠動脈の大きさ、長さに合ったものを使用します。

 治療前のステントは冠動脈を広げるバルーン(風船)の外側に小さく畳んだ状態で装着されていますが、カテーテルを挿入して内側のバルーンを広げると、ステントも一緒に大きくなって冠動脈を広げることができます。その後、バルーンは冠動脈の中から回収され、ステントのみが冠動脈内に留置されるという仕組みになっています。

 このステント治療が日本で一般的に行われるようになったのは1990年代半ば以降で、比較的最近です。ステント治療は外科的に胸を切開するバイパス手術に比べ傷口が小さく、治療時間や入院期間も短くて済みます。患者さんの負担が非常に少ないこともあり、世界的に大きく普及することとなりました。

 しかし、最初の頃のステント治療には「再狭窄(きょうさく)」といわれる大きな問題点がありました。

 これはステント治療後、6~8カ月くらいの間にステント内側が新生内膜という組織によって覆われ、冠動脈が再び狭くなってしまう現象を指します。この再狭窄が当初、治療例の20~30%と比較的高率に起こっていたため、ステント治療の弱点とされてきました。

 再狭窄を克服するために開発され、最近は主流となっているのが薬剤溶出タイプのステントです。

 このタイプは従来型ステントの表面に免疫抑制剤が塗られており、その薬の作用でステント内に発生する新生内膜を防ぎ、再狭窄を予防することができます。薬剤ステントを使って治療すると、再狭窄は5%以下と劇的に減る効果があることが分かり、現在では重症の狭心症、心筋梗塞にまで積極的に薬剤ステント治療が行われるようになってきています。

 しかし、薬剤ステントを使えば狭心症、心筋梗塞の治療すべてが完了するというわけではありません。主には、飲み薬を継続していただく期間があるためです。ステント治療後は、冠動脈が血の塊(血栓)で詰まらないようにするため、複数の予防薬(抗血小板剤)を一定期間は飲む必要があります。

 ステント治療はバイパス手術よりも簡単にできるのが強みですが、飲み薬の継続は患者さんにとって少し負担になるかもしれません。また、多くの抗血小板剤を長期にわたって内服し続けることは、出血の可能性を高めることになります。どのタイミングで内服を減らすのがよいか見極めることも、治療を行う上で大事なポイントです。

 心臓病では、薬を続けて内服するということが、在宅治療でも重要だといえます。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 ひろはた・あつし 香川県大手前丸亀高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、津山中央病院、米国スタンフォード大学循環器内科などを経て、2006年から心臓病センター榊原病院に勤務。09年から現職。医学博士。日本内科学会認定内科医・指導医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定高血圧専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医、代議員。

(2019年02月04日 更新)

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