第9回 肝臓寿命―生活習慣の改善が肝臓寿命を延ばす―

日野啓輔教授

仁科惣治講師

富山恭行講師

後藤加奈子副主任管理栄養士

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の第9回が2月9日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。「肝臓寿命―生活習慣の改善が肝臓寿命を延ばす―」をテーマに、川崎医科大学教授ら4人が講演。最近注目されている、ウイルスやアルコール摂取と関係なく発症する慢性肝炎などを取り上げ、肥満や糖尿病を改善して肝臓を元気に保つため、生活習慣を見直すよう呼び掛けた。

肝疾患における生活習慣の重要性
川崎医科大学肝胆膵内科学教授 川崎医科大学附属病院院長補佐、肝・胆・膵内科部長 日野啓輔


 生活様式の変遷と肥満・糖尿病の発症率の変化には密接な関係があります。人間の摂取カロリーはこの50年間ほぼ一定ですが、エネルギー摂取に占める脂肪の割合は年々増加しています。1960年頃から急速に自動車保有台数が増えていますが、ほぼ同様の上昇率で増加しているのが糖尿病患者です。つまり、脂肪を過度に摂取し、歩かなくなれば、人間は糖尿病になるということです。

 老化や運動不足で筋力や筋肉量が減少した状態を「サルコペニア」といいます。筋肉が減ると基礎代謝量が減少し、消費エネルギーも少なくなるため、以前と同じ食事でもエネルギーを使い切れずに体に脂肪がたまりやすくなります。減量というとカロリー制限を思い浮かべる人が少なくありませんが、カロリー制限を主とする減量では、体重が減った分は筋肉が減少するだけで、結果としてますます太りやすい体に改造していることになります。

 今、医学の中で大変注目されているのが、臓器相関という概念です。肝臓は脂肪や筋肉と密接に関係し、共同作業で体内の代謝をつかさどっています。これまで肝硬変や肝がんのような重篤な疾患の主要な原因は肝炎ウイルスでしたが、今や肥満や筋肉の減少と関連した脂肪肝が取って代わろうとしています。

 過食や運動不足に伴う肥満、筋肉の減少は肝臓病を引き起こし、生活習慣が改善されなければそのまま進行していきます。「生活習慣の改善が肝臓寿命を延ばす」という今回の市民公開講座のテーマの通り、肝臓病を改善、予防するためには生活習慣の見直しが欠かせません。

太りすぎが肝臓を脅かす
川崎医科大学肝胆膵内科学講師 川崎医科大学附属病院肝・胆・膵内科医長 仁科惣治


 日本は高度経済成長期以降、生活水準が飛躍的に向上した一方、高脂肪食などによる過度のカロリー摂取や運動量の低下が進み、肥満者は増加の一途をたどっています。特に内臓脂肪型肥満の方はメタボリックシンドロームのリスクが非常に高く、脂肪肝をはじめとした多くの生活習慣病を合併しやすくなります。

 日本における肝がんの原因は、これまでB型肝炎とC型肝炎および過剰なアルコール摂取が大部分を占めていました。しかし、最近の研究では、肥満に関連した「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH(ナッシュ))」が発症リスク要因として注目されています。NASHは過度のアルコール摂取がないにもかかわらず起こる、脂肪肝による慢性肝炎で、肥満や糖尿病に伴って発症することが知られています。

 脂肪肝とは、肝臓の細胞の30%以上に中性脂肪がたまった状態をいいます。具体的な症状がないため、「たかが脂肪肝」と思われがちですが、NASHを放置していると肝臓が傷だらけ(肝線維化)になり、その結果、肝硬変へと進行、さらには肝がんへとつながっていきます。特に肝線維化が進んだNASHに対しては、今のところ直接有効な治療薬はなく、NASHに合併した糖尿病や脂質異常症などの治療を行うことになります。

 また、脂肪肝の合併に関係なく、肥満や糖尿病単独でも肝がんのリスクは増えます。

 NASHの治療や肥満に伴う肝がんの予防には、食事・運動療法を中心とした生活習慣の改善による減量が最も有効です。運動はスクワットなど下半身の筋トレとウオーキングの組み合わせがお勧めです。

肝がん、肝硬変には筋肉が必要
川崎医科大学肝胆膵内科学講師 川崎医科大学附属病院肝・胆・膵内科医長 富山恭行


 肝硬変はその名の通り肝臓が硬くなった状態のことを指します。さまざまな原因によって肝細胞障害が引き起こされた慢性肝障害の終末像です。

 肝機能が低下した重度の肝硬変では、黄疸(おうだん)、腹水、浮腫、肝性脳症、消化管出血(食道・胃静脈瘤(りゅう))などの肝不全症状を来します。肝硬変になると肝がんを高率に合併することが知られており、肝硬変患者さんの死因の約7割は肝がんが原因と推測されています。日本では年間約3万人が肝がんで亡くなっています。

 肝がんの標準治療は外科的切除術のほかに、肝がん特有の内科的治療が確立されています。がんに電極針を挿入して高周波で焼く「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)術(RFA)」や、肝動脈に抗がん剤などを注入し、がんを死滅させる「経カテーテル的肝動脈化学塞栓(そくせん)術(TACE)」といった治療法で、いずれも低侵襲です。

 肝がんの治療方針を決める上で最も重要な要素は肝機能です。肝機能が低下すると肝不全症状で命の危険にさらされるだけでなく、肝がんの治療そのものが不可能になります。

 肝機能の改善、維持には、一見無関係のように思える筋肉の果たす役割が重要です。筋肉量の低下したサルコペニアの肝硬変患者さんは、そうでない肝硬変患者さんに比べて予後が悪いことが明らかになっています。また、筋肉は肝臓とともにアンモニアなどの解毒処理を行っています。筋肉量の低下は血液中のアンモニア濃度の上昇につながり、肝性脳症による意識障害などを引き起こします。

 肝心かなめの肝臓を大切に、肝臓寿命を意識した生活を送りましょう。


川崎医科大学附属病院における肝疾患患者の栄養指導
川崎医科大学附属病院栄養部副主任管理栄養士 後藤加奈子


 日本人の肥満が増えた原因の一つに、朝食を食べない、夕食の時間が遅いといった食事リズムの乱れがあります。「早寝早起き朝ごはん」という言葉を聞いたことはありませんか? これは文部科学省が子どもの健やかな成長のために掲げた目標ですが、肥満の予防にも大切だと考えられています。朝食を食べない人は、食べる人に比べて約5倍も肥満になりやすいという研究結果もあります。

 どうして朝食を食べることがよいのでしょうか。「時間栄養学」という考え方があります。何をどれだけ食べるかだけではなく、いつ食べるのかに注目し、人間の生物学的リズムに合ったタイミングで食べることで生活習慣病を予防しようというものです。

 朝食を食べないと昼や夜に食べる量が多くなります。1食に食べる量が多くなると血糖値が上がりやすくなり、使われなかった血糖は最終的に脂肪に変わり、肥満へとつながります。朝食では、脳へ栄養を取り込める炭水化物(米、パン、麺類、シリアルなど)を食べましょう。肉や魚、乳製品、大豆製品といったタンパク質の多い食品、野菜も加えれば満点です。

 食事療法だけで痩せようとすると筋肉量が減ってしまうため、同時に運動をすることが大切です。1日8千歩以上歩くことを目標にしましょう。運動が難しい人は日常生活の中でエネルギー消費を増やすことがお勧めです。エレベーターを使わずに階段を使う▽待ち時間は立って待つ▽歩ける距離は歩く―など、座っている時間よりも立ったり動いたりしている時間を増やしてください。

倉敷で9日、骨の健康テーマに第10回講座

 本年度最後の第10回「川崎学園市民公開講座」は9日、倉敷市笹沖のくらしき健康福祉プラザで開かれる。

 「骨の健康 骨粗鬆(しょう)症による骨折を防ぐ―川崎医科大学の取り組み―」をテーマに、福永仁夫学長ら5人が講演。50歳以上の女性の3人に1人がかかるとされる骨粗鬆症の原因や治療法、予防法などを紹介する。

 午後2時~4時。参加無料。事前申し込み不要。問い合わせは川崎学園(086―462―1111)。

 講師と演題は次の通り。

 福永仁夫・川崎医科大学学長「骨粗鬆症とはどんな病気」▽曽根照喜・同大学放射線核医学教授「最新の治療とは」▽脇本敏裕・川崎医療福祉大学健康体育学科講師「『骨を守る』運動」▽寺本房子・同大学臨床栄養学科特任教授「骨の栄養、カルシウムだけ?」▽大成和寛・川崎医科大学脊椎・災害整形外科学講師「『骨を守る』ためにできること」

(2019年03月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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