岡山「晴れやかネット」診療所の利用促進へ 患者情報共有、多職種参加で地域連携

晴れやかネットを閲覧する氏平院長。患者が在宅療養を続けるには他の医療機関や介護事業所との情報共有が欠かせないと考える

 病気を抱えても住み慣れた地域で暮らし続けるには、日常の診療を担う診療所が軸となり、病院や介護事業所などと連携してサポートすることが必要だ。岡山県内の医療機関がインターネットを介して患者の電子カルテや検査画像などの診療情報を共有する「晴れやかネット」でも、病院だけでなく診療所の利用を促進する取り組みを進めている。ネットを活用することでどんなメリットがあるのか、地域連携のモデル事業に参加している岡山市の診療所を訪ねた。

 「これを見れば、病院のカンファレンス(症例検討会議)に毎日参加しているようなものです」

 氏平医院(岡山市中区古京町)の氏平徹院長(61)がパソコンのモニター画面を見ながら説明する。表示されているのは、氏平院長からの紹介で病院に入院している患者の電子カルテや検査画像。晴れやかネットを使えば、事前に同意を得た患者について、検査内容やその結果、処方された薬などの情報をリアルタイムで把握できる。

入院中も状況確認 

 日頃は在宅で氏平院長が診ていても、検査や手術などのため入院を勧めることがある。氏平院長は紹介などで入院した患者約60人の状況をネットで小まめにチェックし、退院後も切れ目のない診療を続けられるように準備している。

 メールや電話でも病院とやり取りできるが、ネット上では、検査データや撮影画像などのより詳しい情報が得られる。例えば、心不全の患者が飲水量の制限を緩めてほしいと希望した場合、どこまでなら可能か、微妙な調整をするのに日々の変化の記録が役立つ。

 晴れやかネットでは、診療所側の情報も開示し、病院と双方向で閲覧できる。骨折などで入退院を繰り返した80代女性のケースでは、氏平院長が「なるべく在宅療養させたい」という家族の意向を病院に伝えた。情報交換しながら、自宅でリハビリに取り組んでもらうようにするなど、方針を共有できた。

モデル事業で拡張版 

 氏平医院は晴れやかネットの拡張機能「ケアキャビネット」にも参加している。本体のネットの閲覧は医療職に限られるのに対し、拡張版は介護職など多職種が利用できる。共有するのは診療情報そのものではなく、基本情報を記入した定型のシートとし、随時、情報を修正・追加する。訪問看護などを提供した際に患者の様子などを書き込む掲示板もある。

 ケアキャビネットは、岡山市が昨年10月から中区で試行している医療・介護連携のモデル事業でも活用されている。事業には氏平医院をはじめ、病院、診療所、訪問看護ステーション計17機関が参加し、事前に同意を得た診療所の患者の情報を共有。緊急時の入院受け入れや、診療所同士が協力して在宅での看取(みと)り希望をかなえることなどを目指している。

 病院勤務で救急外来を担当した経験がある氏平院長は「病院側も入院前から患者の情報を把握できていると助かる。多忙な勤務医でも、ケアキャビネットなら、空いた時間に閲覧できるだろう」と話す。

費用に見合う利点を 

 晴れやかネットは2013年1月に運用を開始した。ネット本体に参加する医療機関は、病院、診療所、薬局、老人保健施設の計419機関(1月末現在)。参加率は病院が県内の約7割に達しているのに対し、診療所は約1割にとどまっている。

 ネックの一つが費用だ。個人情報を厳密に管理するため、閲覧する側は1人ずつIDを取得しなければならない。施設として毎月、最低5千円の会費を払い、複数の医療者が利用するにはさらに1人1500円の追加会費がかかる。小規模な医療機関にとって負担は小さくない。

 ネットを運営する医療ネットワーク岡山協議会(同市北区駅元町)の秋山祐治常任理事は「実際に使ってもらえば、費用に見合ったメリットを実感できるはず。中区のモデル事業のように地域連携で実績を積み、利用拡大を図りたい」と話している。

 晴れやかネット 管理運営主体の一般社団法人「医療ネットワーク岡山協議会」は岡山県、県医師会、県病院協会が設立した。診療情報を登録している患者はケアキャビネットを除き約2万9000人(1月末現在)。2016年4月から広島県の医療情報ネット「HMネット」と連携し、申請すれば互いに情報を参照できる。

(2019年03月18日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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