(7)食道がん 津山中央病院外科部長 繁光薫

従来の開胸手術と異なり、傷が小さく整容性に優れる胸腔鏡下手術

繁光薫外科部長

 食道がんは消化管の腫瘍の中では比較的まれで、年間罹患率(人口10万人当たり)は男性が15・1人、女性が3・0人、全体では9・0人で、胃がんや大腸がんの7分の1ほどです。原因として飲酒および喫煙との関係が指摘されており、1日30本以上のヘビースモーカーや、酒1・5合以上の飲酒の習慣がある人では、食道がんの発生率が、非喫煙・非飲酒者の40倍と報告されています。

 早期の食道がんは症状に乏しく、進行するに従い食道のしみる感じや不快感、違和感が出てきます。腫瘍が大きくなって食道内腔(くう)が狭窄(きょうさく)し、通過障害をきたした結果、医療機関を受診される患者さんも多く、治療開始前に経腸栄養や高カロリー輸液など栄養療法を先行しなければならない方もいます。しかし最近では内視鏡検査の普及・進歩に伴い、胃カメラで早期食道がんが偶然発見されることも多くなっています。

■ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

 粘膜層にとどまる早期食道がんに対しては、内視鏡的切除が可能です。侵襲(体に与えるダメージ)は低く、高齢の患者さんでもQOL(生活の質)を損なうことがなく、非常に有用です。当院の消化管内科でも2004年に導入し、15年間で193例の患者さんに行い、良好な治療成績を得ています。

■胸腔鏡下食道切除術

 がんが粘膜よりさらに深く広がったり、すでにリンパ節転移を伴ったりしている進行食道がんに対しては、根治性(がんが治癒する可能性)を高めるために、放射線治療(陽子線治療を含む)や化学療法、手術のほか、これらを組み合わせた集学的治療を行うことが必要となります。

 特に食道がん治療の基本となる手術は、頸(けい)・胸・腹部の3領域に手術範囲が及ぶため、患者さんの負担は大きくなります。他の消化器がんに比べ合併症の頻度も高く、術前術後のリハビリや術後集中治療も不可欠とされてきました。近年は鏡視下手術の進歩により、胸腔鏡下で食道切除、リンパ節郭清を行うことや、胃管を用いて食道を再建することが可能となり、患者さんの負担軽減に役立っています。

 この手術の利点としては、(1)従来の開胸手術では右側胸部を約10~15センチ切開していたのに対し、胸腔鏡下手術では約0・6~1センチの傷が6カ所で整容性に優れる(2)開胸手術よりも胸壁の破損が少なく、術後の痛みも少ないため、早期離床・リハビリの開始が可能で、肺炎や血栓症などの合併症軽減にもつながる(3)胸腔鏡の拡大視効果により、微小な血管や神経を損傷することなく緻密な手術が可能―があります。

 当院でも17年11月から岡山大学病院消化管外科の協力を得て、床に伏す姿勢での胸腔鏡下食道切除、上向きでの腹腔鏡補助下胃管再建術を導入し、現在まで11例(うち2例は80歳以上)に施行し、重篤な合併症なく、術後3~6週で軽快退院されています。

■チーム医療

 前述したように食道がんに対しては内視鏡的診断・治療、手術・放射線治療・化学療法、栄養療法や周術期のリハビリ、集中治療などが必要です。当院でも内科・外科・麻酔科・放射線科・感染症科・歯科口腔外科・循環器内科などの医師のみならず、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、放射線技師といったコメディカルの協力の下、多職種によるチーム医療を行うことで、食道がん手術の安全性の向上・合併症の軽減を図っています。

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 津山中央病院(0868(21)8111)。

 しげみつ・かおり 岡山県立児島高校、岡山大学医学部卒。岡山大学第一外科、十全総合病院、岡山済生会病院、川崎医科大学総合外科などを経て、2017年より津山中央病院勤務。医学博士。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本食道学会食道科認定医・評議員、日本臨床外科学会評議員、日本腹部救急医学会暫定教育医・評議員、日本救急医学会専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医。

(2019年06月17日 更新)

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