第3回 急増する前立腺がん ―知っておきたい最新情報―

園尾博司氏

玉田勉氏

宮地禎幸氏

永井敦氏

槇枝亮子氏

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の本年度第3回が6月8日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。「急増する前立腺がん―知っておきたい最新情報―」をテーマに、川崎医科大学の教授らが新しい診断法やロボットを使う手術、進行がんに対するホルモン療法を解説し、附属病院の管理栄養士が予防のための食生活の見直しを呼び掛けた。

座長あいさつ 川崎医科大学附属病院 病院長 園尾博司

 日本人男性のがんでは、胃がんに次いで多いのが前立腺がんです。前立腺がんは最近24年間で実に8倍に増加しています。これからますます増えるとみられています。

 前立腺がんは、血中腫瘍マーカーの測定により早期発見が可能です。今回の講座では、前立腺がんをより正確に診断できる超音波とMRIを融合した最新の検査方法と、ロボット支援下の前立腺がん手術を紹介します。転移した前立腺がんに対するホルモン療法についても分かりやすくお伝えします。がんを予防するための健康レシピと、闘病時の食事の注意点などもお話しします。

 前立腺がんは早期発見すればほぼ100%治癒が期待できます。男性の誰もが罹患(りかん)するかもしれない前立腺がんのことを学んでいただければ幸いです。

前立腺がんを早期に正確に発見するために
川崎医科大学放射線診断学教授・川崎医科大学附属病院放射線科(画像診断)部長 玉田勉


 高齢化と食生活の欧風化により、前立腺がんが急増しています。感度の高い腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(prostate specific antigen=PSA)は血液検査で簡単に測定できるので、ぜひ年に一度は受けてください。

 PSAが上昇していれば、前立腺生検でがんを診断します。しかし、現在行われている経直腸超音波ガイド下の系統的生検は、(1)腫瘍を明瞭に描出しにくい(2)生検針が届きにくい場所がある(3)腫瘍の大きさや悪性度を過小評価しやすい(4)根治療法の適応でない「非有意がん」を検出してしまう―といった問題があります。治療が必要な「有意がん」を正確に診断することが求められています。

 現在、複数の撮像法を用いて総合的に画像評価する前立腺マルチパラメトリックMRIの臨床応用が始まっています。前立腺有意がんの検出に優れ、がんの広がり(被膜外浸潤、精嚢(せいのう)浸潤)を正確に診断することができる検査法として期待されています。

 そのMRIの情報をガイドとした生検法として、MRIと超音波の画像を3次元的に融合させて、MRIで指摘された病変を標的として狙撃生検を行う「MRI―経直腸超音波融合画像ガイド下前立腺生検」が考案されました。

 当院では昨年8月下旬、この生検を行うためにKOELIS社製の「TRINITY」を導入しました。これまでにPSAの高い患者さん百数十例で標的生検を行い、大きな合併症はありません。従来の系統的生検に比べ、前立腺がんの検出のみならず腫瘍の大きさや悪性度の診断も向上し、正確な治療方針の決定につながっています。

 検査時間も約35分で終了します。今後、前立腺生検の主流になると考えています。

ここまで進歩した前立腺がんの手術
川崎医科大学泌尿器科学特任教授・川崎医科大学附属病院泌尿器科部長 宮地禎幸


 前立腺内にがんがとどまっている限局性前立腺がんの治療は、手術療法と放射線療法が中心になります。従来の根治的前立腺全摘除術は、開腹して前立腺と精嚢を取り除き、膀胱(ぼうこう)と尿道をつなぎ直す手術です。根治性は高いのですが、出血量が多く、体に負担がかかるのが欠点でした。

 2000年代になると腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が普及してきました。出血量が少なく傷も小さいため早期に社会復帰できます。しかし、小さな穴から手術器具をきめ細やかに操作するのは難しいという欠点があり、できる施設が限定される状態でした。その問題を解消するように登場したのがロボット支援手術です。

 日本では2012年4月から、前立腺がんに対するロボット支援手術が保険適用になりました。3次元で高解像の画像を見ながら、手ぶれもなく、非常に繊細な作業ができます。従来の開放手術と腹腔鏡手術の利点を併せ持っています。

 早期がんであれば、性機能を保てるように神経を温存したり、再発のリスクの高いがんであれば、骨盤内拡大リンパ節郭清を含む広範囲前立腺全摘除術を行ったりと、患者さんのがんの状態に応じた手術手技が少ない出血量、小さな傷でできます。

 しかし、ロボット支援手術でも全身麻酔が必要で、全身状態から手術を受けるのが難しい患者さんもおられます。根治性があっても、性機能障害や尿失禁が長く続くリスクもあります。

 前立腺がんはゆっくり進行することが多いです。大切なのは、MRIと超音波を融合した新しい生検で正確に診断することです。治療にはいろいろな選択肢があります。年齢やリスクを考え、本当に必要な方にロボット支援手術を行い、それ以外の方は監視療法や放射線療法など他の治療を選ぶことができます。

前立腺がんのホルモン療法
川崎医科大学泌尿器科学教授・川崎医科大学附属病院泌尿器科部長 永井敦


 そもそもホルモンとは何でしょうか。ギリシャ語の「ホルマオー」が語源で「刺激するもの」という意味があります。医学用語としてのホルモンは「生体内で生成され、血液中に分泌されて運ばれ、特定の器官に作用する微量の化学物質」のことです。焼き肉で食べるホルモンとは意味が違います。

 前立腺に関係するのは、テストステロンを代表とする男性ホルモンです。前立腺に作用し、その働きを活発にします。主な働きの一つは精液の一部である前立腺液を作り出すことです。子どもを作るのに大事なホルモンです。

 ただし、男性ホルモンは前立腺がん細胞を増殖させる働きがあることが分かっています。がんがない状態では全く問題ないのですが、いったん前立腺がんが発生すると、男性ホルモンはがんを増殖させる厄介な物質になるわけです。

 前立腺がん細胞に男性ホルモンが働かないようにして、がん細胞の活動を抑えるのがホルモン療法です。かつては精巣を取り除いて男性ホルモンを下げていましたが、現在は注射や内服薬で治療します。前立腺がんが再発した上皇さまも14年以上ホルモン療法を続けておられ、十分効果が証明されています。

 しかし、男性ホルモンを下げると、ほてりや発汗、うつ、肥満、骨粗しょう症、心血管系疾患などの事象が起こることがあります。担当医と十分相談しながら治療を進めていただくことが大切です。

 がんが前立腺にとどまっている場合は、手術療法や放射線療法により、男性ホルモンを下げることなく治療できます。ホルモン療法はあくまでがん細胞が全身に散らばった、転移のある進行がんを対象として行う治療であることを知ってください。

がんを予防するための健康レシピ~病気と闘う身体作りを目指して~
川崎医科大学附属病院栄養部主任管理栄養士 槇枝亮子


 がんは日常の食生活と密接な関係を持ち、要因の3分の1は食べ物に関係していると言われています。

 がん治療では手術、放射線、化学療法(ホルモン療法)が三本柱ですが、第4の治療法としてがん免疫療法が注目されています。体が備え持つ免疫機能を強めてがん細胞を排除する治療です。栄養バランスに優れた食生活を基本とし、発がん性物質を避け、細胞の酸化を防いで免疫力を高める抗酸化成分を積極的に取ることが大切です。

 前立腺がんは欧米化した食生活で、動物性の高脂肪・高コレステロールの食事をすると発症リスクが高くなるとされています。予防には、加工肉や赤身肉などの動物性脂肪や牛乳・乳製品を控え、ビタミンDをしっかり取ることが大事です。大豆製品に含まれるイソフラボンも前立腺がんの発生率を低下させると報告されています。牛乳・乳製品の代わりに、豆乳、豆腐などを使ってみてください。

 免疫を高める食事として、第7の栄養素と呼ばれるファイトケミカル(植物性化学物質)が脚光を浴びており、強い抗酸化力があるとされています。

 脂質では、n―3系多価不飽和脂肪酸を取ると免疫力が上がり、がんの予防に役立つとされています。この油の一つであるEPAは青魚に多く含まれ、最近はサバ缶詰が話題になっています。他の料理の油を控え、炒め物などにこれらの油を使えば、体にいい油を取ることができます。

 高価な食品を買う必要はありません。毎日の食生活に不健康な偏りがないか見直し、悪いところがあれば、できることから少しずつ改善しましょう。「食事は楽しく」が基本です!

(2019年07月01日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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