(2)泌尿器科のがん患者さんはたくさんいらっしゃいます 岡山市立市民病院 泌尿器科診療部長 津川昌也

津川昌也泌尿器科診療部長 

 泌尿器科では尿路と男性生殖器の診療を行います。図1に示したように尿路には腎(腎実質と腎盂(う))・尿管・膀胱(ぼうこう)・尿道、また男性では前立腺、陰茎、精巣などの生殖器があります。さらに副腎の診療も行います。それぞれの臓器に悪性腫瘍、がんが発生します。

 国立がん研究センターの2014年統計データでは日本人が生涯でがんに罹患(りかん)する確率は男性62%、女性47%で、男女とも2人に1人ががんに罹患するリスクがあります。残念ながら、がんはすでに身近な疾患になっています。

 また、同センターの18年がん罹患数予測では泌尿器科で診療する前立腺がん、膀胱がん、腎細胞がん、腎盂・尿管がんを合計すると13万800人となり、全体の12・9%を占めます。

 一方、16年の厚生労働省の調査では医療施設に勤務する医師数30万4759人のうち、泌尿器科を主たる診療科としている医師は7062人、2・3%でした。したがって、1人の泌尿器科医が診療するがん患者さんは決して少ないとは言えません。

 当然、岡山市立市民病院泌尿器科でもこれらの臓器に発生した良性疾患だけでなく、がんの診療も行っています。04年から18年までの15年間に当科で行った手術・検査(入院の上、脊椎麻酔などをかけて行うもので、血液検査やCTなどの画像検査ではありません)の推移=図2=をみると、11年までの前半ではがんに対する手術・検査、前立腺針生検、良性疾患に対する手術件数は平均でそれぞれ年間72件、67件、120件でしたが、12年以降の後半ではそれぞれ年間100件、55件、290件となっています。前立腺肥大症、腎尿管結石に関連する治療が急増していて良性疾患に対する手術の増加が目立ちます。しかし、がんに関する件数も約40%も増加しています。

 今回、泌尿器科に関連したがんの検診とがん治療の現状についてお話しいたします。

検診指針改正 

 16年、厚生労働省のがんの検診方法に関する指針の改正で前立腺がんを早期発見するための血液検査によるPSA検診は市町村のがん検診として行うことは推奨しないと変更されました。これに伴いPSA検診を中止している自治体がありますので、ご注意ください。なお、この指針は個人負担の検診を妨げるものではありませんので、人間ドックなど任意でPSA検査を受けることに問題はありません。

内視鏡手術 

 泌尿器科で診療するがんに対する治療の中心は病巣の摘出手術ですが、最近では、低侵襲な内視鏡手術が中心になっています。膀胱がんに対しては組織検査と治療を兼ねて、経尿道的膀胱腫瘍切除術が行われます=図3。当科でも年間50件以上の手術が行われています。膀胱がんはしばしば再発しますが、この手術は繰り返し行うことが可能です。最近、画像強調観察技術や経口診断用剤を使って小さな腫瘍も確認して切除を行うことで再発率を低下させることができます。また、再発予防のために抗がん剤あるいはBCG(ウシ型弱毒結核菌)を膀胱内に注入することがあります。

 かつては開腹手術で治療されていた前立腺がん、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、筋層浸潤膀胱がんに対して最近では多くの施設で腹腔鏡(ふくくうきょう)手術(内視鏡手術用支援機器を用いるもの、いわゆるロボット手術を含む)=図4=が行われるようになりました。当科でも90%以上のがん患者さんで経尿道的手術、腹腔鏡手術でがん治療が行われています。

 一方、手術を希望しない患者さん、他臓器の合併症で手術できない患者さん、さらには再発・転移症例などは放射線治療や全身抗がん剤治療が行われます。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 つがわ・まさや 倉敷青陵高校、岡山大学医学部卒。香川県立中央病院、福山市民病院、岡山大学病院泌尿器科講師などを経て2003年4月より岡山市立市民病院勤務。日本泌尿器科学会専門医・指導医、泌尿器腹腔鏡技術認定制度認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、ICD制度協議会認定 Infection Control Doctor、日本性感染症学会代議員、岡山大学医学部医学科臨床教授、医学博士。

(2019年07月17日 更新)

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