(5)早期発見、早期治療、そして早期回復のために 岡山赤十字病院 心臓血管外科部長 中西浩之

バスキュラー・ラボのメンバー

中西浩之心臓血管外科部長

谷口裕一検査部生理検査課長

 心臓血管外科は、岡山赤十字病院循環器センターの外科部門として一翼を担っています。心臓外科手術と血管外科手術(大動脈瘤(りゅう)、閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤、透析シャントなど)を行なっています。今回は血管外科治療の中で特に大動脈瘤と下肢静脈瘤についてお話しします。

 早期発見、早期治療。この言葉を聞いたことがある方は多いと思います。どんな病気にも共通することですが、血管外科治療においてもまずは早期発見することが、その後の治療での患者様の身体や精神的な負担を軽くし、早期回復につながるのです。

 二つのチェックリストから病気について考えていきます。

 まずチェックリスト1をやってみてください。大動脈瘤は、9割以上の方が自覚症状なく大きくなります。破裂して初めて症状が出ることがほとんどです。破裂してからでは手遅れになる可能性が高く、欧米ではがん検診と同じように、大動脈瘤検診が行われています。リストで二つ以上当てはまる方、もしくは大動脈瘤になった血縁者がいる方は、是非一度検査を受けて下さい。

 次はチェックリスト2です。下肢静脈瘤はリストのような症状が出ることが多いのですが、早期に適切な治療を行うことにより症状がなくなり、生活の質を向上することができます。リストで一つでも当てはまる方、特に湿疹や潰瘍がある方は早めの受診をおすすめします。

 次に、我々が常に目指している負担の少ない治療方法についてお話しします。

 まずは切らないで治す大動脈瘤手術(図1、2)です。従来は、胸や、お腹を大きく切開して大動脈瘤を人工血管に交換する手術でしたが、ステントグラフトという新しい人工血管が開発されました。このステントグラフトを大動脈瘤の中に入れ大動脈瘤に直接血圧がかからなくする手術を行うため、足の付け根の小さな傷のみで済むようになり、90歳以上の患者様でも回復が早くなりました。高度な医療で実施には認定機構の審査が必要です。当院では、胸部及び腹部大動脈瘤ステントグラフト施設として認定されています。

 次に、切らないで治す静脈瘤手術(図3)です。下肢静脈瘤に対する高周波カテーテル治療が2014年6月より保険適応となりました。当科でも施設認定を得て、14年10月より治療を開始しています。カテーテルを血管の中に入れて高周波の熱により静脈を収縮、閉塞させる治療法です。従来の手術と比べ切らないので体への負担が少なく、日帰り手術が可能となりました。

 なかにし・こうじ 岡山朝日高校、宮崎医科大学(現・宮崎大学)医学部卒。岡山大学病院、香川県立中央病院、広島市民病院、メルボルン王立子供病院、メルボルン大学付属オースチン医療センターなどを経て、2012年6月より岡山赤十字病院勤務。心臓血管外科修練指導医・専門医、日本循環器学会専門医、日本外科学会指導医・専門医、日本胸部外科学会指導医、医学博士。

バスキュラー・ラボについて
岡山赤十字病院 検査部生理検査課長バスキュラー・ラボ責任者 谷口裕一


 血管外科治療のパートナーとして欠かせないバスキュラー・ラボ(血管検査室)をご紹介します。

 心臓血管外科が扱う全身血管の病気の正確な診断と最適な治療を目指し、当院には血管の病気を専門とした検査室であるバスキュラー・ラボが存在します。

 バスキュラー・ラボではこれらの疾患に関する検査の専門資格者である血管診療技師が診療に当たります。超音波(エコー)検査を中心として心電図、脈波といったさまざまな検査を行い、迅速に病態を把握し診療へとつなげる重要な役割を担っています。

 血管診療技師の活躍は検査室だけにとどまりません。手術室や血管造影室で治療の介助に当たり、心臓血管外科医とパートナーシップを組み、放射線技師など他職種の医療スタッフとも協力しながら、チームとして診療に当たります。最新で良質な検査技術を提供し、患者さんの治療に貢献できるよう努めています。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 たにぐち・ゆういち 藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)衛生学部卒。水島協同病院、心臓病センター榊原病院を経て、2013年12月より岡山赤十字病院勤務。臨床検査技師、超音波検査士、血管診療技師。

(2019年08月05日 更新)

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

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